第1話

文字数 1,854文字

とある山村へ電気の点検をしにきた英さんは、山道で道に迷っていた。
「もう夜の十時過ぎだ…、宿はどっかにないのかな…」
と車を走らせて周りを見回したら、一軒の古い民家に灯りがついていた。
英さんはその民家の戸に向かってすみませんと呼んでみたら、たったったっと足音が近づき戸が開いた。
「はい、こんな夜中に何かご用ですか?」出てきた髭面の男は優しく声で答えた。
「すみません、少し道に迷いまして、今晩だけ泊めてもらえませんか?」
というと誰もいない山奥だがそこらじゅうに響くような大声で叫んだ。
「はい‼︎いいですよ‼︎、今晩でも一年でもこの村にいても構いません‼︎」
英さんは疑問に思った、ここは村があることは聞いたことがないのであったが、しかしそこの民家の後ろ。
暗いけどよく目を凝らしてみると、この民家と同じ家がちらほら見えた。
「あの…あそこにも民家がありますが、どうして電気がついてないのですか?」
すると男はこう答えた。
「あそこは、この村の者たちが暮らしている家です、私はここの村長です」
「ではなぜあそこの家々は電気が消えているのですか?」とその男に質問したら。
「この時間帯は村人は皆寝るんですよ、私はここへ、怪しいものが不法侵入しないように、しばらくは起きているのです」
英さんは少し納得した、ここは街から山奥の所なのでそういう習慣があっても珍しくないから。
「さあさあ お客さん、一軒だけ空いてる家があるので、そこまで案内します」と男は英さんを連れて、暗闇を歩いて行った。
英さんは、その男の後ろをついていきながら周りをキョロキョロと見回したが、どの家も少し年期の入った民家ばかりで、
灯りがないのもあるが、それでも何も人の気配がないのがすごくわかった。人影もないし見たのは少し後ろの茂みから出てきた狸しかいなかった。
「さあこちらです、ではおやすみなさい」男はお辞儀をして自宅へ戻った。そして英さんはその古い民家で一夜を明かした。その朝、英さんは男に挨拶をしに、彼の家へ尋ねたが誰もいなかった。
「…そういえば、この村の人間は全く見かけなかった…」と少し疑問に思ったが、それよりも仕事の事を優先しすぐに
車でそこを去った、ようやく目的の村へ着き、そこの仕事を終えて村の食堂で昼ご飯を食べていたら食堂のおばさんが話しかけてきた。
「英さん、いつもありがとね。ここは道が複雑で遠いので大変でしょ」
「そうですね、いつもは日付が変わった深夜に着くのですが。今回は道中の村で一泊したので…」というとおばさんは疑問な顔をしてこういった。
「村?この周辺にはここ以外の村はないよ…まあ以前はね」
「以前?、何かあったのですか」と英さんは聞き返したら、おばさんはこう語った。
「この村から英さんが通る道にね、あそこの近くに村があってね、覚えている限りおじいちゃんとかおばあちゃんが多かったわね」
「今でいう過疎の村ですよね、それで人がいなくなったのですか?」というとおばさんは少し眉間にシワを寄せながらこう答えた。
「いやそうではないのですよ、今から一年前に街へ行っていた村の若者が街の人を連れてきて村を活性化させようと考えていたのよ」
「それでうまく行ったのですか?」と聞くと。
「全然、村民がよそからの人を嫌って村八分(ここで言う仲間はずれやいじめ)にあってみんな出ていって
残った村の若者はその村八分が原因で頭がおかしくなって…」と少し声を詰まらせたので、英さんは
どうなりました?と聞いてみたらこう答えた。
「村の人たちをみんな殺したのよ、その後は山に逃げ込んでまだその人は見つかってないのよ」
英さんはゾッとしたまさかあの村はそんな事があったとは、思わず手に持っていた箸がカランと落ちてしまった。
「んで、その人はね事件を起こす前には、その村をいっつも自分の村にして村をよくするんだと言っていたの。」とおばさんは言った
英さんは「じゃあ、あの時あった人はまさか…」顔を真っ青にして食堂を出た、その後は村の人と挨拶して村を後にした。
夕方ごろ自宅へ帰るために車を走らせていたら、昨日寄ったあの民家の近くへやってきた。
そのまま通り過ぎればよかったのだが、英さんは車を止めてその民家へと歩みを進めて。
恐る恐る戸を開けてみたら、誰もいかった、土足でその家へ入ろうとしたら、
奥から何かが飛び込んできた。ばっと避けて目を凝らしたらそれは狸だった。
狸は昨日の男が言ってた村という所の方向へと走っていきすぐに見えなくなった。英さんはもうこれ以上は関わるのをやめて
すぐに車を走らせた。

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