刺身の国の太っちょドラゴン

文字数 1,252文字

 ここ数日、家で小学生の息子が浮かない顔をしていた。
「どうしたんだ?」
「ボクが……友達と遊んでるつもりなのに……女の子たちが、ボクがいじめられてるって言うんだ……」
「へぇ……。で……その女の子は、何をいじめだと言ってるんだい?」
「友達が、ボクをアダ名で呼ぶ事……」
「どんなアダ名?」
「……ウォン・ロン……」
 たしか、私が子供の頃から有るゲーム「モンスター・トレーディング」……通称「モントレ」に出て来るモンスターだ。
 愛らしい感じの太っちょのドラゴン……だった筈だ。
 まぁ、少し太り気味の息子を連想しない事も無い。
「お前は、それをいじめだと思うのかい?」
 息子は首を横に振った。
「そうだよ。それがいじめかどうかを決めるのはお前だ。何も知らない他の子じゃない」
 最近の小学校では「友達をアダ名で呼ぶのは禁止」なんて馬鹿の事をやってるらしい。
 もちろん、いじめに繋がるようなケースは良くないが、逆の極端も良くないのは当然だ。
 子供に、そんな息苦しいルールを強いて何になるのだろう?
 数時間後、寝る前に、スマホでSNSを見てみた。
 どうやら、外国のニュースキャスターが日本を「刺身の国」と呼んだ事が、その国で「炎上」しているらしい。
 馬鹿馬鹿しい。
 それが差別かを決めるのは日本人だ。
 何も知らない他人じゃない。
「日本人の私が『刺身の国』と呼ばれても気にならないのに、欧米のスタンダードに合わせて差別だと言われても違和感が有る。そんなモノが『価値観のアップデート』なら、私は古い人間のままで結構だ。あの発言を炎上させるような人とは付き合いたくない」
 私はSNSにそう書き込んだ。

「堀井や藤本みたいな事を言う女を『ポリコレ』とか『フェミ』って言うんだってさ。モてないブスがブチ切れて言ってるだけだよ」
 五十嵐くんは、そう言った。
「なぁ、ウォン・ロン。ポリ井やフェミ本が言うみたいに、俺達は、お前をいじめてなんかないよな?」
「う……うん……」
 森くんの問いに、ボクはそう答えた。
「ところで、何だよ、その『ポリ井』に『フェミ本』って?」
「だって、ポリコレにフェミだろ」
「親父ギャグかよ」
 友達は一斉に笑った。
 ボクもつられて大笑いをして……友達がいつもボクにやってるように、漫才のツッコミのような感じで、森くんの胸を軽く叩いた。
 ……。
 …………。
 ……………………。
 その場の空気が凍り付いてる事に気付くまで……どれ位かかっただろう?
 ぼごぉっ‼
「おい、デブのくせに何やってんだ?」
 森くんのパンチが、ボクのおなかに叩き込まれた。
「おい、顔はやるなよ」
「わかってるよ」
 それから……倒れたボクに何発もの蹴り。
「しつけのなってないブタだな……ほんと……。いつから自分を人間だと勘違いしてた?」
「おい……ブタ。これは……いじめじゃないよな……」
「う……うん……」
 そうだ……お父さんが言った通り……これが、いじめかどうかを決めるのはボクだ……。
 ボクが……いじめだと思わなければ……これは……絶対に……いじめじゃない。
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