第1話

文字数 1,936文字

 口コミとか気にしちゃう。

 皐月は、何か物を買う時もネットの口コミを調べ、ちょっとでも悪いレビューがあったら「はい、なし!」と即決するタイプだった。コスパよくいきたい。評判悪いものにのお金や時間を使うのは、損だ。

 皐月は生まれてからずっと景気が悪かった。コスパを重視するのは、自然な事だった。メイクや服もプチプラを上手く使う。安いシェアハウスで生活しながら投資や副業をし、そこそこ充実していた。

 ただ、少々生活が物足りないのも確かだった。そんな時、何となく始めたマッチングアプリ。そろそろ婚活したい年頃だった。もっとも皐月の理想は高く、イケメン俳優似の年収八百万以上の男でないと嫌だったが。他の部分では現実的に上手くやっている皐月だったが、婚活においては夢見がちだ。

 マッチングアプリといっても比較的若い人が集まるものを使ったのが失敗だったのか。皐月とマッチするのは、チー牛ばっかりでウンザリ。

「まあ、でも家も近くだし、会うだけ会ってみるか」

 その中で一番マシなチー牛に会う事にした。学校で働いている公務員らしい。顔は、あのチー牛のイラストとそっくり。瓜二つといっていいぐらいだった。

 どうせチー牛には、ガストかサイゼあたりに連れて行かれると思ったが、意外な事にイギリス風カフェに行く事になる。

 住宅街にある小さなカフェだ。淡いミントグリーンの外観は、ちょっとオシャレである。ドアにある小さな英国国旗も可愛い。

「ねえ、なんでイギリスカフェなんて知ってるの?」
「ワイの友達が経営しているカフェなんだよ」
「へえ。って一人称ワイか……」

 自分と身長と差がないチー牛を見ながら呟く。そして全く期待せず、このカフェに入った。そもそもイギリス料理=不味い印象がある。友達はイギリスに語学留学していたは、美味しいものはマックだけだったと言っていた。不味そうなところに婚活相手を連れていくのは、チー牛らしい。服も変なロゴが入ったシャツにサイズ合ってないチノパン。ママから買ってもらった服かと意地悪な事を思う。逆に髪型や服装をプロデュースしたら面白そうだが、このチー牛にそんな伸び代があるのかはわからない。

 カフェの中は、意外にも雰囲気が良かった。全体的に白のインテリアでまとめられ、カウンター近くにケースに入ったケーキやスコーンの見た目は可愛い。店長はけっこうなイケメンで、客で賑わっている。

 店の隅にある席に案内され、チー牛と向き合って座る。ふわふわのソファはまあまあ居心地いいが。

「フィッシュ&チップス、キャロットケーキ、あとスコーン頼む」
「あ、チーズ牛丼頼むんじゃないんだ?」
「皐月さん、なんか言った?」
「いえ、私も全く同じものを。あと紅茶ください」

 イギリス料理なんてどうせ不味いだろう。全く期待していないというか、嫌ってる。不味いイメージしかない。

「あれ? このフィッシュ&チップスは臭くない?」

 しかし、テーブルの上に届けられたフィッシュ&チップスは、香ばしいいい匂い。イギリスに語学留学していた友達は、臭くて食べられたもんじゃないと言っていた料理だが。

「ここのはちゃんと日本人の口に合うようにアジャストしてるからね!」
「意識高そうなカタカタ英語使ってドヤ顔しないでくれません?」

 そうは言っても芋はカリカリ、フライはタルタルソースによくあって美味しい。あっという間に全部食べてしまう。

 それにキャロットケーキ。これも野菜が入っているのが信じられないぐらい甘い。人参入りなんて、どうせ不味いだろうと思っていた。見た目も濃い目だったが、実際食べると立派なスイーツだった。

「食わず嫌いしないで実際食べると美味しいだろ?」

 チー牛のくせに言っている事は、確かだった。

 今までネットの口コミで判断していた事を後悔もする。もしかしたら、ネットで叩かれているものも自分に必要なものもあったのかもしれない。

「スコーンもいいよなぁ。イギリス料理らしく味が薄いから、ジャムやクリームをお好みで楽しめるのも」

 チー牛はドヤ顔で語る。

 うん? このドヤ顔は、悪くない? ボサボサ眉毛や小さな目、ボコボコな口元もちょっとは味がある……のか?

 目を擦ってもう一度チー牛を見る。いや、どう見ても子供おじさんっぽい顔のチー牛だ。美味しいイギリス料理と紅茶のいい匂いで少し美醜基準が狂っていたかもしれない。ただ、自分勝手に食わず嫌いしてる可能性も考えられる。

 そもそも自分だって大したスペックでもないのに、高望みしすぎてたかも……。

 まだまだこの人の事はよく知らない。ちょっと知りたいと思う。食わず嫌いはやめてみよう。

「さて、次はどこで会う?」

 スコーンにお好みのブルーベリージャムをつけながら、聞いてみた。
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