ナビゲート

文字数 1,370文字

はい。聴こえます。ちょっと遠いかな。もう少しだけボリューム上げられますか?
ありがとうございます。私はあなたのナビに従って進めばいいんですよね?
よろしくお願いします。

では、もう早速山道に入ってしまって大丈夫ですか?
了解しました。今、山道を進み始めました。しばらくはこのまま、舗装された道を行くんでいいんですよね?

……それにしても。まさか我々の村に、こんなコンピューターシステムができるなんて思いもしませんでした。
あなた方は凄いですね。これがあれば、沢山の村人の安全が守られることになるでしょう。
……えぇ。今日のこのナビゲートだけで、どれだけの村人の命が救えるのか。感謝してもしきれません。
深夜の山奥は、私も正直怖いですけど、大事な村人の命のために精一杯頑張りますよ。


あ、この辺りでしょうか。
山道はまだ続きますが、そろそろ横の雑木林の方に入った方がいいですかね?
わかりました。足元注意ですね。お気遣いありがとうございます。
……あぁ、こっちの方に入っていくと、わずかな月明かりさえも届きづらくなるんですね。
なんて真っ暗なんだろう……。きっと今頃、彼女はこの暗闇の中で、一人きりで怯えていることでしょう。
……早く見つけてあげたいです。少しでも早く、こんな怖い場所から救い出して、安全に保護してあげなくては。

え、レーダーが動き出した?
そうですか。……いいえ、確かに見つけるのは少し面倒になるかもしれませんが、動いているということは、無事に生きているという証拠ですから。安心しました。
はい、頑張って保護しましょう。引き続き、ナビをお願いします。


…………!
居た! 見つけました、間違いなくこの子でしょう。

きみ、怖かったでしょう。
もう大丈夫だから。安心してこっちへおいで。
……そんなに怯えた顔をしないで。
大丈夫、安全にみんなの所へ連れていくと約束していますから。
ほら、こっちへ来て。
いつまでもこんなところにいては、野生のイノシシに食い殺されてしまうかもしれない。私は村人の安全を守らなければならないのだから、絶対にそんなことはさせませんよ。
さあ、美しい娘さん、怖がらないで、こっちへおいで。

…………だめですね、どうしましょうか?
すっかり怯えてしまっていて、敵意しか向けてきませんよ……。
……まあ、この状況ですから、当然なんですけどね。
でもこのままでは彼女を安全に保護することができません。
……仕方ない。なるべく手荒なことはしたくなかったんですが。



はい。お待たせしました。
……えぇ、仕方なくスタンガンを使いましたよ。
念の為持たせておいてくれて、ありがとうございました。
これで一応、無事に保護することができましたので、これから下山します。
はい。彼女を抱えながら歩くので、来た時よりも更に足元に注意します。

あぁ、それにしてもこのコンピューターシステムは本当に素晴らしいです。
時代に取り残された我々の村も、これからは村人の命のためにも、こういった新しい文明を取り入れていくことを考えなければいけませんね。
本当に感謝しています。あなたのおかげで、大切な村人の命を救うことができました。
……えぇ。
………彼女以外の全ての村人の安全が、当面の間は保証されたわけです。

では、恐れ入りますが、あと少しだけナビをお願いしますね。
この山道から、……はい、龍神様の滝までです。


【終】
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