3 ランチタイム

文字数 1,493文字

 大学の夏休みも終わり、少しは涼しくなってきたと感じる9月のこの頃。
 台風接近に伴う、風による被害や水の被害のニュースがちらほら聞こえてくる。台風と聞いて良いことが思いつかない昨今、できるものなら避けて欲しいとは思う。けど、人間の力ではどうにもできないし、台風を呼ぶ気象そのものはなくてはならないものだとするのならば……もし何かあったのだとしても最小限のことで済んだらいいと心から願う。
 FMラジオから流れるニュースにそんなことを思いながら、私はハニーと大学近くのカフェでランチセットを食べていた。
「ね、立ってやるとかどうなんだろ?」
 デザートで運ばれてきた梨のコンポートをフォークでつついた時、向かい合わせで座っていたハニーが言った。
「……は?」
 あまりの衝撃にフォークがぐさっと梨にささった。
 ……立って、やる? やる?
 な、何を? まさ……か。
 その、一見具体的なようで、実は曖昧、みたいな言葉、どう解釈したら……。
「うん? だから、立ってやるってどんな感じなのかなって」
 臆するわけでも恥ずかしがるわけでもないハニー。勘違いな返答で笑われてしまったらどうしようか。だって、こんな真っ昼間に、オープンテラスで、ランチしながら、清楚なロングヘア美人が、セックスの話をするだろうか!?
「あの……ね、もっと具体的にさ……何が、立って、なの、かな?」
 恐る恐るお伺いをたててみれば。
「言っていいの?」
 にこっと彼女は笑った。笑ったー! しかもちょっと小悪魔(私の個人的意見)っぽく!!
「いやっ、いいですっ、わかった、多分、わかったから!」
 わかった、うん。
 ひとりあたふたする私よりも返答が大事らしく、そこへのつっこみはまったくなく、私をじーっとガン見なさるハニー。ひいい、なんでこんな場所で昼間にそんな話を振るのかなこの人は。
「あ、あの、でもなんでその質問?」
「男女のAVでさ、そういうシーンあるじゃない、だからどうなのかなって」
 ………………。
 頭に即座に沸いた疑問はこの際、瞬殺しておいた方がきっといい。アダルトビデオとかどこで見たの? ってか、見るのOKなの?、とかいう非常にどきどきする疑問は。
「あ、あああ、なるほど、ね」
 先の真相もだけど、今それをここで言うの。ハニーの突拍子のない大胆行動はたまにあることはあるけども、今日は突き抜けてる。そういうとこも面白くて好きだけど。
 まあ……そりゃ……。確かにいつもお布団とかベッドとか、床にシーツとか、地面さんと平行してますよね、ハイ。
 それが、壁だったり木(!?)だったりタイル(!?)だったり地面と垂直だったらどうなの?っていうハナシですよね、ハニー。どっちが、かはとりあえず不問。
「やっぱり違うのかな」
 もう、何が、とは聞きませんよ、ええ。そういえば、その手のハナシをハニーとしたことなかったな。お互いそれぞれどこかで仕入れてきた知識を披露したことはない。アクロバティックなことをするわけでもないし。
 だって、そう詳しく知らなくてもできないことないし。互いの欲求があれば。同じ体の構造してるしね。だからハニーは特に知ってるとは思ってなかったけど。ほら、まあ、ハニーは受け身というか上か下かと言えば下だし。
 ま、でも彼女の場合、とてもアカデミックに眺めてる気がしないでもない。
 とか何とか思いつつも。
 セックスが嫌なわけでもなく、することに対しての欲求もちゃんと持ってることに素直に嬉しくもあった。
「気になる?」
「うん」
「すごく?」
「うん」
 飾らない、にこにこと素直にうなずくハニーがとても愛しい。
「今日泊まってく?」
「うん」


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