人柱トンネル

文字数 1,522文字

旧人柱トンネル。あまたくの失踪事件や不審死が相次ぐ出来事が報告されている。
誰も恐れて近づかない場所だ。ただ、深夜2時の丑三つ時になるとコンクリートで塞がれていたトンネルがぽっかりと開き入れるようになるという噂があった。
私は深夜の静寂を破るように車を降りて、目の前に広がるトンネルを見上げた。
ジャーナリストとして、真実を突き止め、ネタにするために足を踏み入れようとした。

深夜2時、本当にコンクリートが敷き詰められていたのかと思うぐらい、トンネルはあった。入り口には古い看板があり、「入ルベカラズ」と書かれていた。トンネルからは湿ったい冷たい空気が流れ、背筋が凍る思いがしたが、決意を固め、懐中電灯を握りしめて足を進めた。

トンネルの中は暗く冷たい空気が漂っていた。懐中電灯の光が頼りだったが、前はほとんど見えない。砂利道をあるく足音が響く。すると突然背後から耳元の近くで声が聞こえた。
「フリカエルナ」
私は振り返った。そこには誰もいなかった。心臓が早く動いて汗が滝のように背中をつたう。しかし、何事もなかったかのように、さらに奥へ進んだ。
奥の方には古びた公衆電話がポツンとあり、ベルが鳴っている。自分のスマホを確認したがトンネルの中は電波がない。
私は音の方に向かった。トンネルの中に公衆電話があるなんて不自然だか、好奇心に駆られて受話器を取った。
「もしもし・・・」
返事はなかった。ガチャ、ツーツー。受話器を置き、公衆電話のボックスから出ようとしたが開かなかった。私は必死に何度も開けようとしたが閉じ込められてしまった。
公衆電話のガラスを蹴り破って出た。そして、さらに奥へ進む。トンネルの奥に行くと体が前へ進まなくなった。感覚的には進もうとする・・・正確には、足が前に動かなくなった。だんだんと焦り、恐怖が私の心を支配し始め、懐中電灯は電池が切れてしまった。何も見えない。真っ暗の中、目が慣れてきたのか、よく奥をみると青白い亡霊のようなものが、何体かふらふら、ゆらゆらとしていた。私はどうすればいいのかわからず、ただその場に立ち尽くした。

突然、ガッと足を手を掴まれた感覚があった。恐る恐る、ポッケに手をやり、スマホのライトで足元を照らしたが、スマホのライトはすぐ消えてしまった。トンネルの奥へ引っ張られた。「うわ!」私は転んで倒れた。白い手達は私をトンネルの奥へ引きずり運ぼうとする。

「南無阿弥陀仏!!!!」私は仏教信者ではないが、この時だけひたすらに念仏を叫んだ。耐えがたい恐怖を感じながらも、振り返り、叫びながらもトンネルの入り口まで引き返そうとした。
光が見え、必死に走った。体は重くゆっくりと進み、長い長い時間に感じた。外の新鮮な空気を「はぁ!!!」と一気に吸い込んだ。夏のねっとりとした暑くてだるい空気に安堵した。
私は車に戻り、エンジンを何度もつけ、4度目でエンジンがかかった。
車から冷房が流れ、ため息が出る。
ふと、私はトンネルを見返すと、そこにはコンクリートに埋められた、旧人柱トンネルがあった。もう二度とここへは訪れまいとちかい、恐怖体験が残った。

次の朝、掴まれた方の足が腫れあがっていた。骨折していたことを知る。高熱は3日間つづき、熱の中、神社でお祓いをしてもらった。すると熱は下がったのである。

人柱トンネルの噂は絶えない。トンネルの手前のドブに埋まって死んでいる変死体、話を聞いて人柱トンネルに行き、次の日、自死した人。そして、謝らなければならない。この話を知った人も夜中に悪夢が現れ、金縛りにあい、おかしなことが起こってしまうかもしれないことを。私は今もこの話を書き続け、広めずにはいられない。呪いは伝染し、きっと終わらないのだから。
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