「愛」とはただの文字なのだろうか

文字数 1,027文字

「愛してるわ、陽彩(ひいろ)
この言葉は主人公の女子大学生、宮田陽彩を縛り付ける言葉である。

「愛とは見返りを求めないもの」
これは私が思う今までの愛の捉え方だった。この作品は私の思う愛と合致する部分もありながら、それ以上に強烈な感情を植え付けてきた。愛は見返りを求めてはいけないと思う。しかし、見返りどころか愛によって縛りつけられているのが、この宮田である。
彼女は世間一般の評価からすれば「普通」ではない環境におかれている。いわゆる「不幸」な思いを家族によって強いられている。

この物語は、大学生の一時期を彼女の視点を通して描かれていく。その中で江永、堀口、木村といった登場人物と関わりながら読者と共に悩み、愛や家族について考え、模索していく。
その中には明るく清らかな青春ストーリーなどはないといっていいだろう。登場人物の若者達は家族によって苦しめられており、生きづらさを抱えている。共感できる部分も多くあったが、中には全く理解できないものも存在しており、いずれもインパクトが強い。感情や考えが揺れ動きながら、一気に読み終えてしまった。一気に読んでしまわないと、直前に思っていた考えが変わってしまいそうになるほど登場人物の感情に揺さぶられ、読み進めてしまった。人物がそこに実在するかのように描写が細やかだからこそ、これほどにテーマが衝撃の強いものでも読み進む手が止まらなかったのだろうとも思う。しかし、この読み方がいいとも限らない。立ち止まりながら読むことで、様々な考えや感情が構築されていくことが想像できるからだ。

この作品を読んでいると、果たしてそこに「愛」と名の付くものは存在するのだろうかと思わせられる。愛とは、ただの文字にすぎないのだろうか。本当に実在するものなのだろうか。私達は愛や家族にすがり、強がって生きているだけなのだろうか。それならば、愛を含めた全てを捨てて、自由になりたいとも思ってしまう。しかし、自由には孤独がつきものである。そのもどかしさを主人公の宮田は超越していくように感じる。そのヒント、つまりは生きていく上でのヒントがこの作品には隠されている気がする。

読後感は人それぞれだろう。私は、気分爽快とはいかなかったが、そう感じる人も中にはいるだろうし、私のように愛について見つめ直す人もいれば、陰鬱とした気持ちになる人もいるだろう。しかし、勇気をもって読んでみてほしい。そこには生きづらさを抱えた登場人物達があなたの現実と共に悩み苦しんでいる。
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