第2話

文字数 944文字

澄み切った青空、まさに五月晴れとも言える日に旅に出られるワクワク感を楽しむように坂本詩織は真っ白なキャリアバックを片手に家を出た。
千歳空港の外に出るとまだ肌寒さと言うよりも東京に比べると一カ月も前の気温に戻ったような寒さだ。まだ今日泊まる宿は決めていない。この時期、北海道は観光シーズンでもなく比較的空いている。まずレンタカー会社に向かった。手続きは簡単に終わり中型のセダンを借りた。昔ならロードマップを広げる処だがカーナビで道案内は勿論、いろんな情報を取り込める。車に乗ってから一時間少し走り夕張に着いた。夕張と云えば炭鉱、しかし今は炭鉱もなく夕張メロンが有名な土地柄だ。時期的に少し早いが夕張メロンを食べる事が出来た。

北海道に来た気分に少しなれた気がする。学生時代仲間と来た富良野周辺に行って見ようと考えていた。ただラベンダーの咲く七月には早すぎるがあのパッチワークの丘は富良野一体を見渡せる景色がある。途中食事をしながら走り続ける。そんな車の中で自分は一体何をしているのか同僚の刑事たちは毎日犯人を追って汗を流して働いているのにと申し訳ないような情けないような気がする。でも署長の温情に報える為にも新たな気分で復帰したいと思えばいい。いつまでも過去を引きずっていては警察官失格だ。

まもなく富良野に入るそう思ったときに前方で何かが起きているようだ。
幹線道路ではないので滅多に車とすれ違う事もないが車が二台停まって二人が車の外で何か話し合っているようだ。接触事故でも起こしたのかと思い詩織はレンタカーを二台の車の後ろに停車させた。話し合いというより怒鳴り合いのようだ。
「この野郎、なんで急停車するんだ」
「急停車じゃない。目の前を鹿が通り抜けたので慌てて急ブレーキかけたんだ。あんたこそ車間距離を取っていれば問題なかっただろう。それなのにピッタリ後ろに着くのが悪いだろう。あんたこそ煽り運転じゃないか」
「五月蠅いバカヤロー、お前がノロノロ走っているからだ」
どうやら事故ではなさそうだが、怒鳴っている方は怖そうなお兄さんだ。相手も必死に応戦している。助手席には女性が震えながら状況を見守っているようだ。その女性の連れはやや押され気味だ。停職処分の身だが警察官として知らん顏も出来ない。

つづく
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