第1話

文字数 1,060文字

自分で料理をするようになって、かれこれ20年以上になる。

実家にいた時は、一切台所に立つことなく、親に任せっきりの娘だったが、大学入学を機に一人暮らしをすることになり、必然的に、料理せざるを得なくなった。

家を出る前に、母に最低限のことは教えてもらったものの、ほとんど経験のないまま始めた料理は、当然のことながら、最初は失敗ばかりだった。

一番最初に作ったのは、今でも覚えているが、にんじんの煮物だった。
寮の部屋の小さな卓上にガスコンロを出し、小鍋でにんじんを煮てみたのだが、ものすごくまずかった。
今思うと、具がにんじんだけという時点でかなりおかしいのだが、当時はそんなことにも気がつかなかった。

その後も、塩と砂糖を間違えるという古典的な失敗こそしなかったものの、奇妙奇天烈な料理をたくさん作った。

レンジでチンして爆発した卵、料理酒を入れすぎて酒の味しかしない酒蒸し、ゆでたそうめんを水でしめることもなく放っておいたら全部くっついて団子のようになったこともあった。

ただ、それでも20年も続けていると、ちょっと味が薄いかもぐらいのことはあっても、さすがにそんなにひどい失敗はしなくなってくる。

が、最近久しぶりに、やってしまった。

いつも、ご飯は何日分かまとめて炊いて小分けに冷凍しておくのだが、その日、うっかりご飯を切らしていたことに、夕食時の直前に気がついた。
困ったなと思いながら冷凍庫を開けると、冷凍した餅が目に入った。

そうだ、今日はご飯の代わりに餅にしよう。そう思って、オーブントースターに餅を並べて焼き始めた。
だが、いつまで待っても膨らまない。膨らまないどころか、色すら変わらない。
生白いまま、平べったい円柱形を保ち続ける様子を見て、さすがに変だと思ってトースターを開けて確認したところ、餅だと思っていたものは、実は大根だった。
輪切りにして冷凍していた大根が、丸餅そっくりに見えたのである。膨らまないはずである。

その大根は、捨てるのももったいないので夫と二人で食べた。
一人暮らしで最初に作った人参の煮物に負けず劣らず不味かった。

でも、あのときは全部一人で食べなくてはいけなかったが、今回は消費する人数が一人増えただけ、ましだったかもしれない。夫には災難だっただろうが。

自分のために始めた料理が、夫と二人のためになり、今は娘も加わって三人のためになった。娘が家を出たらまた二人のために、そしていつか料理を卒業する日も来るだろう。
その日まで、家族を喜ばせ、たまに失敗作の処分に巻き込んだりもしながら、楽しく料理をしていきたい。




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