いつか巡り逢う日まで

あなたがこの手紙を読む頃には、
あなたはこの世にもう居ない。

あなたとは一緒に居られないけれど、
あなたが嫌いなわけじゃない、
あなたが良かったから、
あなたを選んだ。

あなたの夫は、
あなたのした事を知っている。

あなたが最初に産んだ子が、
あなたの夫のものであるから、
あなたに知らぬ振りをしてただけ。

あなたの夫は、
あなたを問い詰めない人だから、
あなたを選んだ。

あなたが気付かない人だから、
あなたを選んだ。

あなたを殺したのは、
あなたが愛した人への想いの強さ。
あなたの命を奪ったと忌(い)まれるから、
あなたを選んだ。

あなたの夫は新しい妻を娶(めと)る頃、
あなたの裏切りを疎(うと)しくするだろう。

あなたの血を引かない子ばかり愛されるのが妬ましくなるから、
あなたを選んだ。

あなたがその昔、
あなたの兄弟にしたように、
あなたの子でない兄弟には辛く当たるだろう。

あなたの子でない兄弟に謝るために、
あなたを選んだ。

あなたの夫と、その新しい妻の愛に飢えても、
あなたを知らなければ、
あなたを憎む事はできない。

あなたの存在(こと)は大人になるまで知れないから
あなたを選んだ。

あなたと同じ道を歩んだから、
あなたを選んだ。

あなたにならないために、
あなたを選んだ。

あなたを許せる人と結ばれるよう、
あなたを選んだ。

あなたが無事に生き残れたとしても、
あなたは仕事と子育てで思い悩むから、
あなたを選んだ。

あなたは無理して両方失敗するような人だから、
あなたを選んだ、

あなたがどちらか片方しかできない不器用な人だから
あなたを選んだ

あなたは子供の失敗を身近に感じられる人だから、
あなたを選んだ。

あなたが頼りなさに、子供が応えるから、
あなたを選んだ。

あなたよりも、大きくなった子供を見上げることができるから、
あなたを選んだ。

あなたは親を憎んでいたから、
あなたを選んだ。

あなたの親は、
あなた憎んでいるから、
あなたを選んだ。

あなたの道では修復の見込みはまだ見えないけど、
あなたとならいつか超えられる気がするから、
あなたを選んだ。

あなたの信仰は薄いから、
あなたを選んだ。
あなたの盲目さは光をみつけようとするのに役に立つ。

あなたは人付き合いが上手な方ではないけれど、
あなたは貴方の本当に好きな人に愛を注ぐことができる。
あなたは孤独ではない。
あなたの葬式にはあなたを知る者しか来ないから、
あなたを知る人が、あなたがよく知る人しか呼ばないから、
あなたを身近に感じる、
あなたを選んだ。

あなたは決して大空を羽ばたけるような人でないけれど、
あなたにしか切り開けない世界があるから、
あなたを選んだ。

あなたに伝えなければいけない、
あなたを選べて本当によかったと。

あなたがいつか、新しい人生に出会える事を、
あなたがあなたでない者に成れるよう、
あなたの代わりに願っていた。

あなたが、
あなたが、
あなただけだから……。

あなたがこの手紙を読み終える頃、
あなたにこの手紙を話した事を憶えてはいない。

あなたが思い出せたように、
あなたのように思い出すそのときまで、
あなたへの標(しるべ)を残していこう。
あなたがそれを憶え続けることができなくても、
あなたの支えとなるよう巻き続けよう。

あなたが振り返ったとき路(みち)とわかればそれでいい。

あなたがこの手紙の先へ辿り着くいつかに、
あなたと同じ気持ちを分かち合おう。


あなたは最高のお母さん。