第1話
文字数 1,824文字
死にたい。
…というより、消えたいと思った
あの日。
この先の未来もいらない。
今まであった過去も、
みんなの記憶から消し去って
「俺」という存在を無かったことにしたかった。
「ただいま…」
真っ暗な部屋から帰ってくる言葉がないのは小さい頃から知ってるのに、つい言ってしまう。
期待している訳でもない。
テーブルに無造作に置かれたくしゃくしゃの千円札は俺の夕飯代だ。置いてない日もあるので、今日はマシだ。
高校生になる前のバイトができない頃は水で飢えを凌ぐしかなかった。
小学生の頃、親が離婚してから、母親は俺に無関心になった。
「あんた誰?」
そう言われるのは冗談と言えどキツかった。
「バイト行くか…」
高校卒業したら就職し、一人暮らししようと思う。その為には敷金礼金、初任給が入るまでの生活費、とにかくお金が必要だ。
バイトは居酒屋のホール係だ。
夜も更けてくるとタチの悪い酔っ払いも増えてくる。
「おい、にーちゃん!この店はこんな冷めた料理を客に食わせんのか!」
そりゃ出してからどんだけたってると思うんだよ。めんどくせー…
「なんだその目は!店長よべ、店長!」
「申し訳ございません、いかが致しましたか?」
奥から面倒くさそうに店長がでてきた。
いつもお気に入りのバイトの女の子とくっちゃべってばかりのくせに、忙しそうに装ってた。
「冷たい料理食わせるわ、このクソ生意気な目をした店員雇ってるわ、どうなってんだ、この店はよ!」
「申し訳ございません、すぐに新しい料理お持ち致します。この者にはよく言い聞かせますので…おい!お詫びして!」
「は?なんで俺が…」
「いいから!」
「あれ?ねえねえ、この料理ってさ、俺が来た頃運んでたよね?その子」
突然割って入ってきた部外者にみんな目を向けた。
「美味しそうだなーと思って、俺すぐ頼んだもん。もうとっくに食べ終わっちゃったけど。先に持ってきてもらってるのに、まだ食べ終わってないことに驚いたわ」
「いや、これは…別に食えない訳じゃないしこのままでいいよ!その店員には社員教育ちゃんとしとけよな!」
「はい、申し訳ございません」
「違うでしょ。絡んできといて謝罪なし?大の大人が?そっちこそ幼稚園からママに教育し直してもらった方がいいんじゃない?」
「このやろ…」
顔を真っ赤にし、立ち上がった男だったが、周りがヒソヒソと非難し始めたのもあり
「もうこんな店二度と来るか!」
捨て台詞を吐いて逃げ帰っていった。
丸く収まりそうな状況に油を注いできた部外者に、正直…スッキリした。
「君もさ、こんな店辞めたら?従業員守ってくれない店なんていてもいいことないよ。あ、うちで働きなよ。これ渡しとくね?いつでも連絡してきて、じゃ」
名刺を渡して颯爽と歩いていく男の後ろ姿から目が離せなかった。
「それ、どうするの」
名刺を指さし、苦々しい顔で聞いてくる店長に
「いや、どうするって…」
としか答えられなかった。
「もう君明日から来なくていいよ。こういうトラブル面倒だから。代わりなんていくらでもいるし。連絡してみたら?」
「え、ちょっと…!」
そうか…俺の代わりなんていくらでもいる。
俺を必要としてくれる人なんていないのかもしれない。
帰り道、明日からのことを考えるのも面倒くさくて、ぼーっと途中の橋で真っ暗な川を見てた。
もうこれから先だっていいことないかもしれない。俺が居なくなっても悲しむ人なんていないし、あの女だって食費が浮くってむしろ喜ぶだろう。
〈俺はもう死んでもいいんじゃないか〉
ぼーっと川を見てたら隣に人がいるのさえ気が付かなかった。
「…え…」
その人はいきなり飛び降りた。
川に飛び込んだんだ。
「つっめてーー!」
「ちょ、何やってるんすか!
今引き上げますから!いや、誰か人呼ぶべきか…」
「大丈夫大丈夫、それよりさ岸に上がるの手貸してよ」
急いで土手をおり、スマホのライトで照らして、川に浸かってるのがさっきの割って入ってきた部外者だと気づいた。
「あーほんっとに冷たい!」
「い、いま引き上げますから!」
「あ、すげー冷たいからやめといたら?
こんなとこじゃ風邪ひくだけだよ」
「え…」
「君、さっき死のうとしてたでしょ」
「なんでそんなこと」
「やっぱりさ、君うちで働きなよ」
「仕事…」
「はい、決まり!明日8時にあの橋の上な!」
「はい…」
いつもなら怪しいと思って近づかない。
でも今は無職なんだ。
明日も生きようとするなら俺は働かなきゃ…
そう思った。
あの時、あまりの絶望に完全に冷静な判断が出来なくなっていた。
…というより、消えたいと思った
あの日。
この先の未来もいらない。
今まであった過去も、
みんなの記憶から消し去って
「俺」という存在を無かったことにしたかった。
「ただいま…」
真っ暗な部屋から帰ってくる言葉がないのは小さい頃から知ってるのに、つい言ってしまう。
期待している訳でもない。
テーブルに無造作に置かれたくしゃくしゃの千円札は俺の夕飯代だ。置いてない日もあるので、今日はマシだ。
高校生になる前のバイトができない頃は水で飢えを凌ぐしかなかった。
小学生の頃、親が離婚してから、母親は俺に無関心になった。
「あんた誰?」
そう言われるのは冗談と言えどキツかった。
「バイト行くか…」
高校卒業したら就職し、一人暮らししようと思う。その為には敷金礼金、初任給が入るまでの生活費、とにかくお金が必要だ。
バイトは居酒屋のホール係だ。
夜も更けてくるとタチの悪い酔っ払いも増えてくる。
「おい、にーちゃん!この店はこんな冷めた料理を客に食わせんのか!」
そりゃ出してからどんだけたってると思うんだよ。めんどくせー…
「なんだその目は!店長よべ、店長!」
「申し訳ございません、いかが致しましたか?」
奥から面倒くさそうに店長がでてきた。
いつもお気に入りのバイトの女の子とくっちゃべってばかりのくせに、忙しそうに装ってた。
「冷たい料理食わせるわ、このクソ生意気な目をした店員雇ってるわ、どうなってんだ、この店はよ!」
「申し訳ございません、すぐに新しい料理お持ち致します。この者にはよく言い聞かせますので…おい!お詫びして!」
「は?なんで俺が…」
「いいから!」
「あれ?ねえねえ、この料理ってさ、俺が来た頃運んでたよね?その子」
突然割って入ってきた部外者にみんな目を向けた。
「美味しそうだなーと思って、俺すぐ頼んだもん。もうとっくに食べ終わっちゃったけど。先に持ってきてもらってるのに、まだ食べ終わってないことに驚いたわ」
「いや、これは…別に食えない訳じゃないしこのままでいいよ!その店員には社員教育ちゃんとしとけよな!」
「はい、申し訳ございません」
「違うでしょ。絡んできといて謝罪なし?大の大人が?そっちこそ幼稚園からママに教育し直してもらった方がいいんじゃない?」
「このやろ…」
顔を真っ赤にし、立ち上がった男だったが、周りがヒソヒソと非難し始めたのもあり
「もうこんな店二度と来るか!」
捨て台詞を吐いて逃げ帰っていった。
丸く収まりそうな状況に油を注いできた部外者に、正直…スッキリした。
「君もさ、こんな店辞めたら?従業員守ってくれない店なんていてもいいことないよ。あ、うちで働きなよ。これ渡しとくね?いつでも連絡してきて、じゃ」
名刺を渡して颯爽と歩いていく男の後ろ姿から目が離せなかった。
「それ、どうするの」
名刺を指さし、苦々しい顔で聞いてくる店長に
「いや、どうするって…」
としか答えられなかった。
「もう君明日から来なくていいよ。こういうトラブル面倒だから。代わりなんていくらでもいるし。連絡してみたら?」
「え、ちょっと…!」
そうか…俺の代わりなんていくらでもいる。
俺を必要としてくれる人なんていないのかもしれない。
帰り道、明日からのことを考えるのも面倒くさくて、ぼーっと途中の橋で真っ暗な川を見てた。
もうこれから先だっていいことないかもしれない。俺が居なくなっても悲しむ人なんていないし、あの女だって食費が浮くってむしろ喜ぶだろう。
〈俺はもう死んでもいいんじゃないか〉
ぼーっと川を見てたら隣に人がいるのさえ気が付かなかった。
「…え…」
その人はいきなり飛び降りた。
川に飛び込んだんだ。
「つっめてーー!」
「ちょ、何やってるんすか!
今引き上げますから!いや、誰か人呼ぶべきか…」
「大丈夫大丈夫、それよりさ岸に上がるの手貸してよ」
急いで土手をおり、スマホのライトで照らして、川に浸かってるのがさっきの割って入ってきた部外者だと気づいた。
「あーほんっとに冷たい!」
「い、いま引き上げますから!」
「あ、すげー冷たいからやめといたら?
こんなとこじゃ風邪ひくだけだよ」
「え…」
「君、さっき死のうとしてたでしょ」
「なんでそんなこと」
「やっぱりさ、君うちで働きなよ」
「仕事…」
「はい、決まり!明日8時にあの橋の上な!」
「はい…」
いつもなら怪しいと思って近づかない。
でも今は無職なんだ。
明日も生きようとするなら俺は働かなきゃ…
そう思った。
あの時、あまりの絶望に完全に冷静な判断が出来なくなっていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
(ログインが必要です)