第1話

文字数 1,367文字

「……え、これで終わり?」
「そうや」
「……あれ、なんでこんな話聞いとったんやっけ」
「あほか。お前が話し始めたんやないか。俺はただ続けただけや」
「せやったか?」
「せやで」
「……なんや、よう分らんかったな。誰かがぐだぐだ喋ってるだけで、どっちかお化けなんかどうかもはっきりせえへんし」
「お化けが出るだけが怪談と違うで? ただただ不気味な雰囲気だけっちゅう話もあるんや」
「わあっとるわ。ただ、はっきりせえへんものって余計怖いやん」
「なんで?」
「なんでって……そうやなぁ、そいつがどこにおるか分らんし、ほんまにおるかどうかも確かめられへんし?」
「せやったら気にせんかったらええんとちゃう?」
「いや、あかん。そうやって気にせえへんようにしてる時点で負けっちゅうか、かえって意識してまうやろ? ああ、話しとったらますます怖なってきたわ」
「ふうん」
「……なんて言うたらええんやろな。怖がるのも怖いし、怖がらへんのも怖いっちゅうか……分かるやろ?」
「せやな。ほなら、もう無理やで」
「……え?」
「自分で言うたやろ。怖がっても平気なふりしてもあかんねん。もう逃げられへんのや」
「逃げられへんって、何から?」
「怖いもんや。いや、ただの物やなくて、『  』そのものやな」
「あ? なんやて?」
「いっぺん知ってもうたら、二度とその前には戻られへんねん。気をそらしても、完全になくなることはあらへん。仮にお前の頭の中になくなったとしても、向こうは覚えてるからな」
「……なんでそんなこと言うん」
「ははは」
「冗談なんやろ?」
「冗談と思うか?」
「……」
「……」
「……なんや人のこと馬鹿にしよって、けったくそ悪いわ。俺はもう帰るからな」
「帰ってもええで、無駄やけど。俺ら見られてるからな」
「見られてる? 何言うてんねん」
「ほんまや。少なくとも今はな」
「……誰に見られてんねん」
「誰やろな。誰でも同じや」
「……なんや、おちょっくとんのか!? ほんましょうもない嘘言うて脅かすのやめえや! 面白いと思ってるんか?」
「脅しだと思てるんなら幸せなんちゃう? どっちにしろ、もうあかんねん。途中でやめても、俺らがここで怖い思いしてるっちゅうのは変わらへんやろ? せやから、どうしようもないねん」
「……」
「せやろ? 怖いものっちゅうんはどこにでもあるから、見ないふりしようが考えないふりしようが、消えてなくなったりはせえへんねん」
「……あのなあ、お前さっきから似たようなことばっかり言うとるで。頭おかしいんとちゃうんか?」
「同じように聞こえるやろ? でも、微妙に違うねん。そうやってぐるぐる回ってるように見えて、ちょっとずつ悪い方へ降りていくんや」
「意味わからへん」
「お前もさっきと同じこと言うてるで」
「言うてへんわ。おかしいのはお前だけや」
「言っとるって。自分ではわからへんやろ? しかもどんどん悪く、おかしくなっとる。ちょっとずつ、ちょっとずつな」
「意味わからん……」
「ほら、また言うた」
「……」
「……」
「だからな、もうお終いやねん」
「……」
「……黙んなや」
「……」
「……」
「……」
「なあ」
「……」
「何か言えって」
「……」
「……え、これで終わり?」
「……そうや」
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