本編
文字数 887文字
今日は四月一日。いわゆるエイプリルフールである。
春休みでありながら部活で登校する学生達は各々で嘘をつきあうことを楽しんでいた。
だがその中で、一際変な嘘をつく者がいたという。
「えーりちゃーん!」
この小野寺絵理だ。彼女はガリ勉にしてギークであるが、スクールカーストの下位には決していない女である。
「――お前、嘘をつこうとしているな!」
文芸部仲間の呼びかけに対して、ガバッと振り向き彼女はそう言い放った。
「ええっ」
困惑と共に滴る、微量の汗。絵理はそれを見逃さず同級生のかえでに顔を近づける。
「ちょ、ちょっと絵理ちゃん? まだ私なにも――」
そのまま彼女は――衝撃の行動を取る。
「――!?」
「やっぱり、これは嘘をつこうとしている味だ!」
ぺろりと、彼女の顔から出た汗を舐めたのだ――そう、あのギャングがクセとして披露しておきながら、後のエピソードではなかったことにされた『えげつない黒歴史』である。
「…………」
――なお、この嘘をつこうとしている味というのは、言うまでもなく適当な感想。だがこれは、まだ嘘の序幕であった。
「いいかっ! エイプリルフールは、四月一日ではない!」
次に飛び出したのは、エイプリルフールという日の存在を否定する嘘。
「え、ええ……」
もはや自分がどんな嘘をつこうとしていたのか、それすら吹き飛んでしまったかえで。いともたやすく行われた百合行為の二の矢に、既に彼女は困惑一色に染まっていた。
「本当のエイプリルフール、それは……四月零日だ!!」
――ここで取り出したのは、絵理がギークたるゆえんのアイテムであった。
「――ええっ!?」
机に置かれたのは、二十二枚のカードが重なった束。その一番上に置かれたのは、大アルカナ愚者であった。
それも、タロットカードの中でも一際扱いの特殊なトートタロット。そう、彼女は文芸部一のオカルトマニア。そして――
「――私は、伝説の魔術師アレイスターの弟子だ!」
この学校で一番手の施しようのない、重度の中二病であった。そう、彼女は不思議ちゃんだから、ガリ勉とギークである身でありながら、ナードとは違う身分に立てるのである。