親愛なる貴方へ

文字数 2,078文字

こうして手紙を書いてみたんだけど、何だか気恥ずかしいね。そういえば、そろそろ君の誕生日じゃん、18才のお誕生日おめでとう!君が成人するなんて不思議な気分だよ。ふふ、君の事だから、「会って直接言えば良いだろ」なんて言いそうだけど。

君と会ったのは、確か五歳の頃だったっけ。忘れたなんて言わせないよ?川に落ちた君を助けた父さんが私の服を貸したものの、君は嫌だっ
たんだろうね。顔を真っ赤にして恥ずかしそうだった。あの時は笑ってしまってごめんね。

運命って信じてる?って君のよく言う口癖。
百人に一人居る記憶持ちの君は、たくさんの話しをしてくれたね。四つの人生の記憶があるなんて、正直凄いなって感心していたんだよ。
記憶の一つ目は、お貴族様。たくさんの奥さんが居て、平等に愛を注いでたって。凄いね。
二つ目は、忠実な騎士。生涯ただ一人のお姫様に仕えたんだって。素晴らしい。
三つ目は、暗殺者。全ての依頼に完璧に応えたんだって。立派だと思う。
四つ目は、世界を守るヒーロー。何度も地球の危機を救ったんだって。尊敬しちゃう。
凄いでしょ?耳に蛸が出来る位話してくれたんだもん、空で言えちゃうよ。ふふ。今の君は記憶を活かして、公的機関で働きながら高校生活を謳歌してる男の子。皆に求められる君は、何故かいつも寂しそうで、つまらなそうで、誰を探していたの?

そういえば、今まで言うのを忘れていたんだけど、私も記憶持ちなんだよ。君は怒るのかな?呆れるかな?きっと、ちょっと怒った後に笑って許してくれるよね。そんな君にいつも甘えてしまってるのは悪いなと思ってはいる。実は偶然にもね、私も四つの人生を記憶しているんだ。
一つ目は、貴族の令嬢だった。両親に虐待紛いの事をされた幼少期だったけど、結婚相手は素敵な男性だったよ。心の底から愛してくれたし、尽くしてくれた。でも、隠してたけど他にも愛人が居たらしくて。本当は、私一人を愛して欲しかったな。
二つ目は、王族の姫。おべっかを使う周囲と、私一人にのし掛かる国の命運に参ってた。でも、最期まで仕えてくれた騎士が居たんだ。
国の為に年の離れた年寄りに嫁がなきゃいけなかったんだけど、本当はその騎士に拐って欲しかったな。
三つ目は、男の暗殺者。たった一人の相棒が居たんだよ。真面目で冷酷で融通の利かない男。些細な喧嘩で別れた直後に、自分が先に死んじゃったけどね。本当は、大好きだよって伝えたかったな。
四つ目は、ただの女で会社員。恋人は世界を守る為に戦っていた人だった。彼の所属するヒーロー組織にはスポンサーが必要で、大統領の娘が彼に惚れたらしかった。ある日婚約指輪を投げ捨てて、行方をくらましたんだ。本当は、ずっと一緒に居たかった。
言えなくてごめんなさい。言ってしまったら、今の関係が壊れてしまうと思って。君と私は幼なじみの仲の良い友人。私はそれで充分なんだよ。君の人生の端に居れれば幸せだから。

この際だから驚き次いでに、私ね明日人生が終わります。どう?驚いた?たぶん、公的には心臓発作になるのかな。公安の人でね、世間的に亡くならないといけない人が居るの。偶然私が影武者としてピッタリらしい。大丈夫、痛みは一瞬だって聞いたし、家族には莫大な大金が振り込まれる。君の所属する公的機関には、多大なコネも手に入る筈だから。この手紙を君が読んでる頃には、きっと全部終わってるだろうから、読んだら燃やしてね。約束だよ。

変だな。私何故か泣いてるんだよ。手が震えて、字が汚いよね?ちゃんと読めるかな。胸が痛いんだ。苦しいんだ。4回も死んでるんだから、怖くない筈なのにね。もし生まれ変わったら、記憶なんて要らないや。もうこりごり。私の願いは一つだけ、君が幸せになりますように。…最後に勝手な言い逃げさせてね。もう居ない人間なんだから許してよ。
最愛の旦那様、貴方との人生は幸せでした。でも、時々一人で眠る夜は寂しかったです。
愛する騎士よ、最期まで側に居てくれてありがとう。本当は、貴方の妻になりたかった。
生涯の相棒、お前と出会えた事が宝だった。お前のせいじゃないよ、自分を責めるなよ。
私のたった一人の恋人、貴方との思い出は全部輝いてた。もっと一緒に居たかったの。

あー言えてすっきりした。まあ、君にとったら些細な事かもしれないけど。もやもやして死にたくないからね。これから長い人生を生きる君は、直ぐ忘れてしまうかもしれない。ううん、綺麗さっぱり忘れてね。記憶に振り回されちゃ駄目だよ。君は君で、私も私なんだ。ただ、一人の幼なじみが居たなーって思ってくくれば嬉しいな。私ね、今まで廻ってきた記憶の中で、この人生が一番楽しかった。君とずっと一緒に居られたから。君と手を繋いで、歩いて、話せて、笑い会えた。あー幸せだった。

おっと、そろそろ時間みたいだ。じゃあ、読んだらしっかり燃やしてね?あと、成人したからってお酒の飲み過ぎ注意だよ。しっかりご飯も食べてね。それから

「…ねえお願い忘れないで。」
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