第1話

文字数 1,576文字

朝起きてご飯を食べて、外へ出る。そんな日々は当たり前じゃなかった。
あの時、私たちは生きる意味を身をもって知った。
蜘蛛や貝。人や犬。生きとし生けるもの全てに寿命というのはある。皆、いつか死ぬ。いつか絶滅してしまうかもしれない。
そんな話を大学で話された。私は医学部1年生なのだ。そんなこと言われたってなぁ・・・
その日の夜、大学の親友からメッセージが届いた。
「話したいんだけど、今良い?」
・・・どうしたんだろう?
とりあえず私は電話をかけた。
「もしもし?」
「もしもし。あのさ・・・」
「うん。どした?」
「白血病が分かったの。オペも難しいって・・・」
「え」
「ステージ4だって。時既に遅し・・・」
「どうにかできないの?」
「持って3ヶ月だってさ。」
「そうなんだ・・・」
「晴子、頑張って医者になってね。私の分まで頑張って。」
「すぐ死ぬみたいなこと言わんといて。」
「だって後悔無い人生送りたいじゃん?」
「そうかもしれないけど・・・」
「大学はどうするの?」
「辞める」
「そうなんだ・・・」
「残りの人生、悔いなくして終わりたい。晴子とも遊ぶし、色々やる!」
「そっか」
私の人生は、この15分で変わってしまった。これからどうしていけば一番良いのだろうか・・・私の医療に対する見方も変わった。
白血病とは、少しの感染菌でも感染症を発症してしまう恐れがある病気。感染菌をやつける白血病が壊れてしまうことによって発生する。
ステージがこんなに進んでいて、自覚症状がこれまで無かったという例は特殊であるくらいだ。
それから私達は、音信不通になってしまった。大学の同級生でも無くなったし、私もどう接して良いのか分からなかったからだ。
私が次に連絡を取ったのは、それから三ヶ月経って、電話が病院から掛かってきた時だった。
「東京総合病院です。参田亜美さんが危篤状態です。集中治療室の5番に来てください。」
「あ、はい、分かりました、すぐ行きます」
動揺した。間違えて電話した?それとも、私の電話番号を緊急連絡先に入れた?何が何だか分からないけど、大変な状況だという事に変わりは無いので、東京総合病院まで急いで向かった。とはいえ、タクシーで20分かかる場所だ。間に合うかは分からない。
信号待ち1回目。2回目。3回目。
「なんでこんな時に限って・・・信号があるわけ?」
大体の料金は走行中に計算しているので大丈夫だと思った。しかし、予定より信号待ちの時間が長かった。
「3200円ですね。」
もう!3000円用意してたのに!200円を探して、やっと渡した。
「ありがとうございました!」
私が駆け出すと、バスの運転手さんがドアを開けて
「忘れ物!」
「あーごめんなさい」
私は急いで取りに行って、走って病院内に入った。5番が見つからず近くの人に聞くと、特別室を紹介された。そういえば彼女は、資産家の娘だった。私の家の総資産とは桁が2つから3つほど違うのだ。そんなこと今はどうでも良い。間に合うか。間に合わないか。
ドアを開けたら、そこには医師と家族たちが立っていた。
「あみ!」
医者が亜美に心臓マッサージをしている。
「・・・」
ピッピッピッという心電図の音が聞こえてきた。
「亜美!」
「オペは無事に成功しました。白血病は治りました。経過観察が充分に必要となりますが、山場は越えました。」
レベル4には難しいとされている、骨髄移植を行った。生還したのは奇跡だ。
「・・・晴子」
「亜美、これからも一緒だよ。だからもう、音信不通になんてならないから。だから・・・」
「分かってるよ。来てくれるって信じてたもん。私がどっちに転んでも晴子と最期までいられるように。」
私は、果たして病気の患者だけが心理ケアの対象なのか?と疑問に思った。いや違う、もっと近くに助けを求めている人もいる。私たちが助けなければならない。何故か?
だって私たちは生きているのだから。
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