第1話

文字数 1,994文字

「そうだ、淳くん! 観葉植物にお水やった?」
「あー、今あげてきます」
「よろしくね!」
二時間目の後に、先生に言われた。
おれはクラスの植物係だから、学級文庫の本だなの上のはち植えに水をあげないといけない。水道でじょーろに水をいれて、はち植えに水をあげる。

「あっ」
本だなと教室のかべの間にはすき間がある。そこにえん筆が落ちてる。
 こういうの見ると、おれはすぐ「ラッキー」って思うんだよ。えん筆を拾ってポッケの中にいれた。

「りょう! お前早く来て! ゴール取られる!」
れんによばれた。そうじゃん! サッカーできなくなる!
「いまいく!」
じょーろの水を全部あげて、げた箱まで走った。

「なあー、サッカーゴールっていっつも六年生が取るよな。うおっ」
れんの近くにボールが飛んで来た。
「うん」
「おかしくね? 六年生のきょう室3階でしょ? おれたち2階じゃん、なんで?」
「たしかに。なんで?」
「今おれが聞いたんじゃん」

 ゴールが取られたから、てきとうにかかとで線引いてみんなでドッチボールすることにした。
「おわ、おいジュンぶつかってくんなよー!」
「いやわざとじゃない! ってかこんなきついんだからぶつからないのむりだろ」
全然スペース取れなくて、めっちゃぎゅうぎゅうでやってる。
「うわ! やべーやられた!」
「おれもしんだ」
「マジ? ダブルアウトじゃん!」
「ぎゅうぎゅうやばいな! めっちゃ早く終わる」
どん、どん。ってあっという間に内野がへってく。外野からのこうげきがすげえ。
「おっ」
れんにボールが来た。
「れんいけ!」
「ぶっつぶせ!」
外野がめっちゃ言ってくる。
「やべえ! れんはやばいい!」
てきが笑いながらびびる。れんはボール投げるのが超速くて、れんが投げたらいっつもだれかが死ぬ。
「よっしゃ、くらええ!」
スピードえぐ!
「うおぉ!」
「いって!」
「やべえ!」
「うわ!」
すご。何人当たった?
「四人当たってんじゃん! やば!」
「えーすげえ!」
すご!
「お前強すぎだろ」
「だろ? おれ天才だわ!」
れんが笑顔を見せつけてきた。

キーンコーン、カーンコーン。
「あ、中休み終わったじゃん」
「もどろうぜー!」
声をかけて、校しゃにもどる。急いで内ばきをはく。
「あ、そうだ、りょう」
「なに?」
「今度さ、お前ん家行ってみたいんだけどどっかで行けたりしない?」

え。
れんを見る。ふつうの顔をしてた。
「……いや、多分むりだと思うー」
げた箱にくつをしまう。
「あーマジ? でも一応お前のお母さんに聞いてみてくれない?」
かいだんを走ってのぼってく。
「聞くけど、多分むりだよ」
きょう室に入った。
「はい、皆早く席に着いてー」
先生にいそがされる。
「むりならいい! おれいっつも自分家にだれか入れてるからさあ、なんとなく行ってみたかっただけだから」
席にすわって、話はおわった。

キーンコーン、カーンコーン。
「はい、皆六時になったから、帰るよー」

うわ。なんか今日あっという間だったんだけど。
ふつうにしてたのに、いつもとちがう感じがしてる。ランドセルを取って、学童を出た。

 ガチャ、ガチャ。ガラガラ。
「ただいま」
時計をみる。六時二十分か。あと一時間でお母さん帰ってくるなあ。

家を見てみる。おれは三回くらいれんの家に行ったことがある。
うち、タタミなんだよな。れんの家はフローリング。
物多くて、おし入れに入らないんだよな。れんはいちいち箱の中にゲームしまってたけど。
れんの家にたばこあったんだよな。最近おれのお父さん、高いしもう買わないって夜言ったの聞こえたんだよな。高いみたいなんだよな、たばこ。

うち、あんまりきれいじゃないんだよな。この間気になって、がんばってそうじしてみたんだよな。ぞうきんでタタミふいて、物そろえたりしてみた。そしたら、いつもより良くなった。帰ってきたお母さんに、めっちゃほめられた。お母さんは笑ってくれた。おれも笑った。けど、やっぱおれ一人じゃきつい。
 お母さんに「むり」って言われたって、明日言おう。

「おはよー」
「りょう! おはよ」
れんの声。なんか、まっすぐれんの顔を見れない。
「れん、おれん家に来たいって言ってたやつさあ」
「あー、それなんだけどさ、やっぱいいわ」

え?
「え、なんで」
「いやさ、昨日俺のお母さんに『りょうの家に行ってみたいんだよね』って話したんだよ、そしたらなんか」
「うん」
「『お母さん夜までいないみたいだし、迷惑になるからあんまり淳君ん家に行かないの!』って言われてさー」
「あー」
りょうくん家、か。
「だからいいかなーって」
れん、けっこうおれのことお母さんに話してたんだ。れんの家に行ったとき、れんのお母さんしっかりしてたしなあ。

「わかったー、いったんランドセルおいてくる」
おれの席に行く。

あっ。急に思い出した。
ポッケに手をつっこんだ。きのうのえん筆が出てきた。

かべと本だなのすきま。
おれとれんにも、なんか、すき間があるよなあ。
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