第1 「初恋の来た道」

文字数 1,899文字

「初恋のきた道」 (「我的父親母親」) 2000年 (中国)                          
 監督 チャン・イーモウ 
 主演 チャオ・ディ(若き日の母): チャン・ツィイー
   ルオ・ユーシェン(私): スン・ホンレイ
   ルオ・チャンユー(若き日の父): チョン・ハオ


 映画コラムですが、今回は中国映画「初恋のきた道」を取り上げます。実は、私は中国映画が大好き。カンフーものや歴史ものではなく、人間ドラマを淡々と描く作品が好きです。この映画のチャン・イーモウ監督とチェン・カイコ―監督が好きです。チャン監督は、確か北京オリンピックで芸術監督を務めましたね。

 華北の貧しい村に、都会からルオという若い小学校教師がやってきました。村で初めての教師、しかも字が読めて文化人の彼に、村一番の美しい少女ディは一目で恋に落ちました。学校を作るために、村の男たちは総出で建設作業に取り掛かります。建築に関わるのは不吉とされた女たちは、男たちが食べる昼食を作ります。ディも、もちろんルオに食べてもらいたい一心で料理をします。心をこめて、1日目はねぎのお焼き(葱花餅?)、2日目は卵ときくらげの炒め物、最終日はきのこ餃子。おいしい料理が増えるたびに、少女の恋心も募ります。そして、念願かなって自宅でルオをもてなすことになりました。しかし、ルオは彼女が作った料理を食べたか覚えていませんでした。そんな彼に、夕飯に大好物のきのこ餃子を作って待っているとディは約束しますが、彼は街からやってきた使いに連れ戻されることになりました。どうやら、文化大革命に何らかの関与をしていたらしいのです。旧暦の12月8日には戻ると言った彼を、ディは待ちます。初めて会ったあの道で、いつも待ち伏せして彼を見つめていたあの道で、待って待って待ち続けましたが、とうとうその日が来ても彼は帰りませんでした。吹雪の中待っていて高熱で倒れた彼女のことを聞きつけて、心配したルオは無断で帰村。それがもとで、彼らは2年会えませんでした。
 それから40年。ルオは亡くなり、年老いたディは、風習通り、街から村への道を、棺を担いで彼を連れ帰りたいと言い張ります。根負けした息子「私」は、その望みを叶えますが、集まった担ぎ手たちは、みんなルオの教え子たちばかり百人。そしてラスト、父母が願った教職には就かなかった「私」は、せめてもの手向けとして、ルオが教えた教壇に立ち、生徒を集めて1時間だけ授業をするのでした……。

 作品は、こういう内容です。そして、映像がとても美しい。少女ディ役、若き日のチャン・ツィイーの衣装はピンク、髪留めは赤、お下げのひもは緑色と、印象的な色が多く使われ、彼女の若さ、あどけなさを引き立てるとともに、ルオが回想する「一幅の絵のような」美しさです。また現在はモノクロ、過去はカラーと、この物語が、ルオとディの話であること、愛するルオを失ったディにとって、現在は「色のない世界」であることを提示します。

 しかし、この作品の英語のタイトルは「The Road Home」であり、原題は「我的父親母親」で、恋や愛といった言葉は使われていません。よく言われる単なる恋物語ではなく、道を通して語られる家族や師弟の絆や、貧しい村での、あちこちに貼られている共産党のポスターにより暗示される文革の影響などもテーマなのです。同じチャン・イーモウ監督の「あの子を探して」も、北方の貧村における教育がテーマです。それに加えて、字が読めないディが、ルオの朗読に聞きほれ、40年学校に通ってその声を聞くというエピソードからも、中国の教育のあり方、女子の生き方に疑問を投げかける監督の視線を感じます。

 「道」は、魯迅の「故郷」という作品に出てくる、「地上にはもともと道はない。歩く人が多くなれば、それが道となるのだ」という言葉のオマージュかもしれません。たとえばインドでは、道で生まれ亡くなる人も多くいます。道とは、そんな人生のドラマが詰まったものなのです。最後に、若き日のディが笑顔で走る、村の美しい一本道は、彼女の一途さ、まっすぐにルオを愛し続けた人生を、何よりも雄弁に物語っています。

 この作品、実はとっても美味しそうな料理の数々にひかれてしまいます。北では小麦粉料理をよく食べるので、「餅」(ピン)や、餃子といった料理が出てきます。特に、大きな蒸籠で蒸し上がったきのこ餃子は、とてもおいしそう。料理研究家ウ―・ウェンさんの監修のようで、手持ちの本にレシピがありました。おいしい料理とひとの絆は、切っても切れないものなのかもしれません。

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