第1話 彼の示してくれること

文字数 999文字

彼に初めて会ったのは、彼が小学生、自分が大学に入学して間もなくの頃だった。

早40年が経過している。

彼は大概、先に自分に気づいてくれて、いつもどこでも大声で挨拶してくれる。

こちらから先に気づいて挨拶したことは多分5回ほどだろう。

ある時、自分が珍しく、この地のJR電車を利用して、県都からホームタウンへ帰ろうとして4人がけの席に座っていた。

「此処空いてますか ?」

一つ前の4人がけボックス席の年配の女性に尋ねている男性がいた。

彼だった。

知能指数が高いと称される人なら、他者に尋ねることなどもなく、当たり前の権利と感じ、席が空いていたら、断ることなどもなく、スマートに黙って座るのだろう。

それが当然で普通で推奨されることだろうか。

自分は彼の行為にとても考えさせられ、教えられ、感激した。

人とは幾つになろうとも彼のように人々に接した方が心和み、尊い関係が築けるのではないのか。

この国の官僚とか呼ばれている方々は一流と目される学校を修了され、難関な試験を通過し、重要な国家的運営・仕事を担われている。

しかし、そのやり方は一般的に解釈が困難で、補助金と言われる無償でいただけるお金も本当は拠出したくないのだろう、と感じられるほど複雑だ。

いったい誰のための国家運営で、誰のための幸せを実現しようとしてるのだろう。

お題は「ほっこりショート」である。

上記のままではそぐわない内容のお話となってしまう。

軌道を修正しよう。

一度、自分がガラパゴスケータイを手にしていたら、彼が貸して欲しい、というので手渡した。

彼は指で触っても変化しない画面に戸惑っていた。

「スマートフォンではない」と手渡す前に断っておいたが、彼にはその言葉が届いていなかったみたいだ。

役場の近くの田んぼで、お婆さんらしき女性なんかと一緒に農作業をしている彼を数度見かけたことがある。

彼は懸命に労働していた。

自分は彼のような魂と知り合えて、とっても感謝している。

彼を一年以上見かけることのなかった数年前は、街で暫くぶりに会い、挨拶された時はとても嬉しく安心した。

彼はただ単に彼自身でいることで、いろんな大切なことを自分に示してくれる。

「小賢しい」と言われるのが適切な人々が沢山いる世の中で、「愚か」と想われるほど、純粋な彼のような存在は、多くの人にとっては、ある意味、迷惑に感じられるのかもしれない。

どんな場所でも大声で挨拶してくれる彼はとても素晴らしい。



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