第1話

文字数 2,219文字

人生で重要なのは「生き方」だとつくづく思う。
面倒なことを面倒と思わずにキッチリ向き合い、その中に必ずある喜びを見付ける。
全ての出会いに意味があり、自分以外の人は必ず自分の知らない何かをを教えてくれる、と思って人と接する。
今日が楽しくなるように精一杯努力し、明日はもっといい日になると信じて寝る。

そうやって前向きに生きている人間には、然るべき出会いが連鎖するものだ。
人生とはすべからく、そうゆうふうにできている。多分間違いない。

さて、トロンボーンの話である。
本物のトロンボーンが欲しくて欲しくて、でも買えない。ハマケンの使っているKINGの2103なんて30万近くするんだよ。どっかに30万落ちてたらなあ、キョロキョロ…
なんて話をあっちこっちでしていた。
俺の行動範囲が狭いのか、はたまたトロンボーンのマイノリティか。「トロンボーンをやってる人」になんて全っ然会わない。サックス、トランペットあたりはちょこちょこ会うんだけど。
なんて話をその日もしていた。

俺のような金払いの悪い客にも良くしてくれる店で、プレゼント関係や時間が空いた時、ふと寄らせてもらっている袋井の雑貨屋さんで。
そこで俺の話を聞いていた店員、ツーさんが不意に言い出した。
ツ「へー。じゃあ南保さん、小学校とか電話してみたらいいのに」
俺「小学校?何の用事で?」
ツ「トロンボーンですよ!今ホラ少子化だから吹奏楽の楽器なんて絶対余ってますよ」
俺「え~そうかなあ!?にわかには信じられないよ」

とは言いながらも、1週間後。
気になった俺はスマホ、いやフツホを手に取った。
プルルルル…電話先は、我が母校桜木小である。
俺「私、20年ほど前にそちらを卒業しまして。実はかくかくしかじか…」
教頭先生が出て来た。なんか俺の想像よりコトがデカくなっている。
教「トロンボーンでいたら30年くらい使ってないのがありますけど。ところで、南保さんはこのトロンボーンをどうされたいんですか?」
俺「ですから。もし使ってないのなら、然るべき対価で私が買い取るとか出来ればと思っています。」
教「市の持ち物になるものですからね。こちらの判断で売却という訳には行かないんですよごめんなさいね。でもまあお貸しするくらいなら、いいですから。全然使ってください」
俺「よろしいんで?!…してお値段はいかほど…」
教「お金なんて頂きませんよ。卒業生の南保さんがこうして電話して来てくれてるんだから。」
俺「教頭~!!!ありがとうございます!!!素晴らしいご判断です。来年の人事異動で校長になるように教育委員会に根回ししときますよ!!」
すぐさま引き取りに行ってきた。30年眠っていたとは思えないキレイな個体だ。
嬉しい。そのまま帰るのもなんなので、学校の庭をウロウロ。懐かしいなあ。
グランドも今見るとけっこう小さいな…よし。
せっかくだからね。ゴソゴソ。
組み立て完了。
グランドでプォ~と吹いたら、全ての教室がザワザワし出したので慌てて逃げ出した。
いやあ、嬉しい。これはツーさんにお礼を言いに行かなきゃ。



俺「ホントありがとね。キミのアイデアのおかげで借り物としてだけど、本物のトロンボーンが手に入ったんだ。」
ツ「いえいえ。でも本当よかったですね~言ってみるもんだ。」
なんて話をしていたら別の店員、俺たちの話が聞こえていたらしいイーさんが話に入って来た。

イ「南保さんもしかして。今トロンボーンの話してます?」
俺「うん、してるけどどうした?」
イ「トロンボーンて、ウチの実家でずーっとしまいっ放しになってるアレですか?」
俺「イヤそれ知らないけど。知らないけど、その話詳しく聞かせて!」

聞けばイーさんの母親は、その昔吹奏楽でトロンボーンを吹いていて、その時のが保管してあると言う。
年末の大掃除でそれを捨てかけていたお母さんを、「お母さんが頑張った証だから」とイーさんは止めたと言う。

イ「という訳でまだあるはずなんですよね」
俺「イーさんもう仕事はいいから!今すぐお母さんに電話して!!」
イ「はいっ!…もしもしお母さん?こないだのトロンボーン?まだある?実は…」
俺「お母さんの後を継ぎたい人がいるんだけど、って言って」
イ「…うん、そうだよね。いいよね、はーい。ガチャ」
俺「どうだった?」
イ「全然もらって下さい、だそうです」
俺「もらって、って!そんな訳には行かないよ!!然るべき対価をだな…」
イ「いいんですいいんです。引き取ってもらえてラッキーくらいなもんですからウチは」
俺「えーそうなの!?…じゃあまあソレで行く?キミの一家丸ごと晩メシ連れてくよ!」
ちゅう訳で俺はトロンボーンを頂いてしまった…何たること、何たる。

引き継ぐにあたり、2代目の俺がキッチリ節目を付けるべきだろう。
そう思って島村楽器の「マーさん」にオーバーホールを依頼した。
ずっと待っていたそれが帰ってきた。
ここからだ。ここからが、お前も俺も新しい人生の始まりになるだろう。
やったね!!!!!!!

やっぱりか。
あの時感銘を受けた言葉はやっぱり真理だったんだ。

「この世は思った通りになるのだそうで。
『思った通りになんかならないよ』と思っている人の人生が、思った通りにならなかった場合
それはそれで、その人の思った通りになっているのだそうで。」

だから俺はこれからも、常に最高型を最終型にイメージして生きて行こう。
それにしてもイイことを言う。さすがワンピースの作者。


ちゃんちゃん。
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