次世代ペンギン

文字数 1,860文字

 ー 10年前 ー
 SDGsは17の項目のうちの大半で芳しくない結果に終わった。それから数年が経ち、地球環境の悪化は年々進む一方で、このままだと、約200年後には地球の平均気温が70℃を越え、地上・海中の植物はすべて絶滅し、呼吸をするすべての生物が姿を消すだろうと危惧されている。
 近い将来の危機を回避するため、国連は「豊かな自然環境復元計画」を『Rプロジェクト』とし、次の3本柱からなる目標を採決した。
1.絶滅危惧種のひとつであるペンギンの個体数を増加させる。
ペンギンが繁殖できる環境が整えば、他の絶滅危惧種も減少し、温室効果ガスの適正濃度の維持も期待でき、異常気象の減少にも繋がる。
2.労働時間は月120時間とし、8時間を越えて就業することを禁止する。
健康な心身の維持を図るとともに、積極的社会活動参加を促す。残業に対しては重刑を処する。
3.二酸化炭素・メタンの発生を極力抑える。化石燃料の使用の禁止。
これに代わる物として念力を使用する。念力には未知の有効活用があり、その開発研究に重点を置く。念力の未発達の国・地域には念力の先進国が率先して援助するものとする。
 各国の政府機関は最重要事項と位置づけ、最優先で関係法令を整備・施行した。

 ー 9年前 ー
『Rプロジェクト』を成功させる対策のひとつとして、雇用者にも労働者にも10分間未満の残業に3万円の罰金が課せられた。残業時間が増すごとに罰金額は大きくなった。1分の残業も見逃すまいと当局の監視は執拗だった。
 「一生懸命働いて残業して多額の罰金を払わなくちゃいけないなんてバカバカしい。」と労働者たちはあっさりと残業することをやめた。
 足りない労働力を補うためにAIロボットの開発が急激に進み、農業・漁業・林業・製造業・建築業・サービス業など、ほとんどの業種に取り入れられていった。ファストフードの厨房の完全なロボット化では経営者側にも大きなメリットがあって高評価が得られている。
 自由に使える時間が増えた人々は一人一人がそれぞれの好奇心を満たし、念力の開発にも積極的になっていった。
「オレ、やればできるじゃん。」
ニキは一枚の板に乗って太平洋を横断することに成功した。

 ー 2年前 ー
 今日は週1回の出張授業で、念力研究所のラゼとクナはカプセルカーで小学校に向かっている。
 カプセルカーは名前の通りカプセルの形をした念力で走らせる自動車だ。内部にはテーブルが付いた座席と念力の安全措置が搭載されただけでシンプルな作りになっている。
 念力安全措置は街中、建物内などの要所に設置されている。そして、念力の暴走を食い止めたり、弱い念力しか持たない人の念力を増幅させたり、生活の中で安全に念力が発動できることが可能になった。いつの世も悪い事を考え付く者がいて、念力を悪用すれば、安全措置が作動して対象者の念力を一時的に奪うこともできる。
 念力を犯罪に使うことは重罪で、犯罪の大小にかかわらず終身刑となる。念力を使った犯罪者の念力は質が高く豊富な量である傾向が強く、人工光合成の原料である二酸化炭素の収集に適していることがわかった。
 そこで、受刑者は刑期中、つまり死ぬまで、過剰な温室効果ガスである二酸化炭素の収集をすることになり、地球の環境に貢献することとなる。

 ー 現在 ー
 温室効果ガスは徐々に適正な濃度に下がってきて、最高気温が35℃を超えることはなくなってきた。
 念力の活用法はさらに広がった。念力で空調管理され、エアコンが消えてから4年経つ。オゾン層に僅かな回復兆しが見られた。海洋プラスチックゴミの撤去にも力を発揮した。
 残業が廃止されて以来、自由に使える時間を自然環境の復元に費やすことが多くなったこともあって、身近な環境問題から宇宙規模な環境問題まで解決しようとする機運が高まってきた。
 『Rプロジェクト』の目標のひとつ、ペンギンの個体数の増加だが、まだ個体数の増加は見られないものの、数年前から減少することはなくなっている。
 環境大学では、北極と南極の失われた氷床の面積と厚さを手っ取り早く取り戻す研究が進められている。ここでも念力が大きな鍵になるのではないかと期待されている。
 最高気温が32℃までに抑えられれば、北上していた陸上・水中の生態系も南下して元の位置に戻り、異常気象による災害も減少することが予想される。
 そして、ついに、
「ペンギン調査機関の発表によりますと、約200羽のペンギンの増加が確認されました。」
というニュースが世界中を駆け巡った。
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