第1話

文字数 857文字

 心地よかった春も過ぎて、梅雨に入って憂鬱な日々。僕はずっと窓の外で降る雨とにらめっこ。雨が降るとなんだか体が重いし、頭も痛いから嫌い。でもこの部屋に居ると、雨に濡れることが無いから、それだけでも僕は幸せな方だと思う。
 そういえば、僕の兄弟達は今頃どうしてるだろうか? この雨に濡れてるのかも知れない。もしかすると、僕と同じように部屋で暮らしてるかも知れない。そうであってほしいなと僕は願いながら、窓越しに雫を見ながら想い耽った。
 そんな梅雨が続いたある日。久しぶりの晴れ間になった。
 うずうずと頭が痛かった、雨が続いてたけれど、今日は体が軽い。すぅっと背伸びをして、僕は窓を見つめる。雨に濡れていないか心配だった兄弟達も、もしかしたらこの晴れ間を見て喜んでいるかも知れない。もしかすると、兄弟の事を考えているのは僕ぐらいかも知れない。他の兄弟は、きっと僕のことも忘れて、幸せに暮らしてる。そう願っている。
 僕の幸せ。きっと、この家に来た事。
 兄弟の幸せ。きっと、僕みたいに気ままに暮らしてる事。
 雨は嫌い。
 だって、僕達兄弟は、気がついたら雨に濡れていたんだから。
 でもね。
 身体が冷え切ったときに、僕達兄弟を見つけてくれた人が居るの。
 その温かかった手は、今でも忘れないの。
 僕達兄弟は、別れ別れになったけど、それでも僕は幸せなの。
 今でも覚えてるよ?
 濡れてる僕を拾い上げてくれたの。
 濡れて体温を奪われた僕達を、優しく温めてくれたの。
 僕は気ままに過ごしているように見えるけど。僕にとっては命の恩人だって。僕達兄弟の命の恩人だって。
 この家の香りは好き。
 この家は優しい香りがするから好き。
 僕はこの家の中でお気に入りの特等席で、ひなたぼっこをする事に決めた。
 自慢の爪を手入れをしてから僕の命の恩人、ご主人様の帰りを待つ。
 うとうとしながら、僕は幼い頃の夢をみた。
 ご主人様の温かい手の中に抱かれて、ごろごろ喉を鳴らしながら、甘えながら寝てたあのころを……。
 
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