第1話

文字数 1,145文字

これは私が20代後半のころのお話です。

転職しようと思って、ハローワークに行ったんですね。

ある事務所をみつけました。

そこは自宅からもそう遠くなくて、デスクワークで、悪い案件ではなさそうでした。
私は面接をお願いしました。
快諾されました。
当時会社のホームページを持たないところもあったので、私はロクに調べもせずに、面接の準備をして、履歴書を書きました。

良かったのはそこまでです。

面接の日が訪れました。
その会社は、小さなオフィスで、雑居ビルの一室にありました。
オフィスの内部は、長テーブルがあって、社長ひとりが面接官でした。
他に従業員はいない様子。
社長は初老の男性(60代くらい?)で、笑顔でした。

面接が始まりました。
私はさっそく履歴書を渡し、自己紹介から、志望理由などを述べました。
社長も、仕事内容を話し、この条件になりますと、簡単に説明しました。

そこからなんだか話が変な方向に進んだのです。

「僕はね、女子大生と働きたいんです」
「はい?」
唐突に「女子大生」というワードを出す社長。私は首をかしげましたが、これは場を和ませる雑談か何か?と解釈しました。
ところで私は女子大生ではない。はてな?
社長はさらに話を続けます。
「女子大生と一緒に働きたいんです」
「はい」
再びの発言。私は少しおかしいな……と思いました。

そこからずーっと、ずーっと、女子大生と働きたい発言が繰り返され、えんえんそれを聞かされる私。
わかった、こいつヤバいんだ!と、気づいたときはもう遅くて、いかにしてこのバカから履歴書を奪還しようか、考えました。
しかし逆上させたら怖いかなとも思い、面接に来たことをとても後悔したのです。

ヤバい社長はやや高揚した表情で、こうも話しました。
「僕は埼玉の会社と取引をしていてね、そこに、女子大生を連れていきたいんだ。一緒に出張できたらいいなと思う」
なんだよ、泊りがけの同伴かよ。
埼玉の会社と、なんの取引をしているのか、私には分かりませんでした。

私はだんだん具合が悪くなり、目線も下がり、社長はしゃべり尽くして気が済んだのか、
「質問はありませんか?」
というありきたりな面接締めくくりをし、女子大生ではない私を解放しました。

履歴書は取り戻せませんでした。

でもその後、普通に不採用の連絡が届き、履歴書が悪用されたとか、そういう事件もなく、ただただ平和に、
「キモい面接だった……」
と時々思い出すのです。

ところで、あれは本当に「会社」だったのでしょうか???
ハローワーク求人だったから、信用して面接に行ったのですが、社内にあったのは「長テーブルだけ」です。
他に従業員もいませんでしたし、もしかして、本当は、女子大生と会社ごっこをしたい、老人の願望の場だったのかもしれませんね……。
現代の怪談みたいな経験をしました。
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