3人の男と週末のBAR鹿話（ばかばなし）【一話で完結】｜ある酒場での一幕

うーむ………

お、どうした？　お前が考え事なんて珍しいな。

俺達の仲じゃないか。悩みがあるなら相談に乗るぞ？

あー、ちょい待ち。

……マスター、適当に一杯くれ。

かしこまりました。

ありがとう。

ごくっ……ごくっ……………ふぅ………

……………………よし！

あのさっ、全然大したことじゃないんだけどさ！

おう。

ああ。

『うんこちんちん』って……いいよな！！

…………

…………まぁ、否定はしない。

確かに『うんこちんちん』に秘められたポテンシャルは計り知れないな。

……いや、俺はそうは思わないな。

どういうことだ。『うんこちんちん』に不満でもあるっていうのか。

いや、『うんこちんちん』が素晴らしいのは認めるさ。

だが俺達はそろそろ次のステージへと進まなければいけないと思うんだ。

なるほど、一理ある。

『うんこちんちん』の次のステージ……………

…………『うんこまん――

待てッ！！！

安易なその言葉……死につながるぞ？

その通りだ。安易に『まんこ』とか言わないほうが良い。

他にもっとふさわしい言葉があるはずだ。

ああ、すまんこ。安易なシモネタは避けるべきだったな。

だが『うんこちんちん』は全国の男子が発狂するほどのハイテンションアップワードでもある『うんこ』と『ちんちん』が組み込まれているんだ。

こうなったら残るは『まんこ』しかないんじゃないか？

おいおい、こいつはとんだ――

困ったちゃんだぜ。

何か良い考えでもあるのか？

ああ、あるさ。『うんこ』『ちんこ』『まんこ』以外のとっておきの言葉がな。

そ、それは一体……！！

それは、『おっぱい』だ！！

『おっぱい』……

そう、『おっぱい』こそは全ての大和男子を魅了する禁断の秘宝。

その双玉の金剛石の前では、かのマンコ・カパックも前かがみになったという。

なるほど！　たしかに『おっぱい』って単語を聞いただけで思わず俺の制御棒が制御不能になりそうだ。

メルトダウン寸前……ってぇわけだな。

（こくり……）

……だが、『おっぱい』なんてそれこそ普通。すき焼きに生卵をつけるが如く普通じゃないか？

それに語感の問題もある。

『うんこおっぱい』『おっぱいちんちん』『ちんこうんこおっぱい』

どれにしても語呂が悪いぞ……

馬鹿野郎ッッ！！！

思考放棄は神への冒涜だぞ！！

！！！

諦めるんじゃない。『おっぱい』だけじゃなく別の方向からも考えてみるんだ。

……俺にいい考えがあるぞ。

聞こう。

『おっぱい』を別の名称に変えてみるんだ。

同じように『うんこ』や『ちんこ』を変えてみても良いだろう。

さすがだ。お前のその機転にはいつも助けられた。

ふふっ……あまり褒めるなよ。

そうなると、『おっぱい』は『ぱいぱい』とか『ぼいん』あたりか？

他にも『パイオツ』、『乳房』などもあるな。

それに海外では『過ぎ去りし日々』なんて言うこともあるらしい。

俺は『ちっぱい』がいいな。

『ちんちん』は『ちんこ』、『ちんぽこ』、『ぽこちん』……少し格式張った言い方をするなら『ペニス』ってところか？

『ペニス』は控えたほうが良いかもしれないな。

そもそも『うんこちんちん』は子供心を忘れない男たちの挽歌。大人っぽい名称の『ペニス』が入ると一気に卑猥になってしまう。

『うんこ』は……

『下痢』

じゃあ、ここまでの意見を踏まえて『うんこちんちん』に変わる新しいニューワードはあるか？

俺は『ちんぽこぼいん』なんて良いかなと思う。

俺はやはり『ちっぱい』を推したい。物理的にも押したい。押し込みたい。

『ちんちっぱい』だと少し省略し過ぎか？

いやいや、言いやすくていいと思うぞ。

ただ巨乳派から反感を買う危険性はあるな。

俺は『過ぎ去りし日々』がすごく気に入った！

『過ぎ去りしちんこ』とかどうだ？

なんか年寄りのちんこみたいだな。かつての栄光というか……

だが、すごく厨二心をくすぐられるな！

マスターは？　なんかないか？

私ですか？

……そうですね。つまらないかもしれませんが、『下痢乳房』なんていかがでしょうか。

さすがマスター。なかなか攻めてきたな。パッと聞いた時のカッコよさや語感も申し分ない。

ああ！　まるで大草原に吹く春風のような爽やかさだ。お見事。

はは、恐縮です。

よっしゃー！　たくさん案が出揃ったな！

それでここからどうやって次世代の『うんこちんちん』を決めるんだ？

やはり多数決が良いんじゃないか？

まぁ、俺の『ちんちっぱい』が圧勝するだろうが……

なぁに言ってんだよ。俺の『過ぎ去りしちんこ』こそ最強だろ！

くくく……面白い冗談だな。

いや、冗談なんかじゃないけど？　お前こそ火傷する前に謝ったほうがいいんじゃないか？

……『過ぎ去りしちんこ』なんてわけのわからない単語で勝ち誇るなんてずいぶんとおめでたい脳みそだな。この赤髪のハンサムが。

んだとこら！　嫉妬なんて見苦しいぞ！

なーにが『ちんちっぱい』だよこのロリコンイケメン黒メガネ！

あー、また始まったか……

マスター、騒がしくてすまないな。

いえいえ、他にお客様もいらっしゃいませんし。お気になさらず。

……それよりも、そろそろお時間が……

えっ？　あっ……

23時50分か………本当ですね。

………そう、か……

……大丈夫ですか？

…………ええ。平気です。

ぐぐぐぐぐ……！！

ぬおおおおお……！！！

二人とも！！　あんまり騒がしいとお店に迷惑だぞ！！

む？

ん？

なー、ほら！　俺に凄くいいアイデアがあるんだ！！　聞いてくれないか！？

な！　当然聞いてくれるだろ！　気になって仕方ないだろう！！？

…………おい。

ああ、わかってる。

………もう、そんな時間なのか？

！！

……やっぱり、バレちゃうか。

当たり前だろ。何年一緒に居ると思ってんだよ！

それで、時間はあとどれくらいだ？

マスター。テレビを点けてもらえるか？

かしこまりました。

――みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

ただいま23時53分となりました。

地球に巨大隕石が衝突する予定時刻まで、あと7分に迫っております――

『――二ヶ月前、政府からの発表直後に頻発していた暴動も、今ではすでに沈静化しており――』

『――私が居るシンジュクビル周辺も、以前の喧騒さが幻であったかのように換算としています――』

『――おそらく、みなさま思い思いの最後の時を過ごしていらっしゃるのでしょう――』

……………………

………みなさま！

隕石が落ちてくるなんて……ほんと、やメテオ！って感じですよね！

！！

あははは……はは……は……

……………ぷっ……

うはははははははは！　このタイミングでそのダジャレはねーわ！！！　はははははは！！

ふ、く、ははははは！　まったくだ！　やはりマスターは最高だな！

いくらなんでも不謹慎すぎるだろう！　あはははははははは！

え、えへへ……

あー、腹いてぇ……！

そういえば、さっきお前が言いかけてたのはなんだったんだ？

そういえばすっかり忘れてた。たしか「いいアイデア」があるんだったな。

ああ、そのことか……。それじゃ改めて言うが……

『うんこちんちん』の次の言葉だが、

、、、、

また今度、みんなで集まった時に決めないか？

……ん、あ………それって……

ああ、わかってる。『今度』なんて十中八九ないだろうな。

だが、あるかもしれないだろ？

また俺達三人で、このバーに集まって騒げるかもしれない。

そうしたらまた、くだらない話で盛り上がろうぜ！

…………いや、残念だがそれは無理な相談だな。

えっ……？

なぜなら……マスターも入れて、次に集まるのは4人だからな。

そうだろう？

……はは、そうだな。また4人で集まろう。

おや、私もよろしいのですか？

当然！　マスターが居なかったら誰が美味い酒を飲ませてくれるんだよ！

ああ、確かにここの酒は格別だ……

恐縮です。

っしゃーー！！　なんかテンション上がってきたし、景気良く乾杯でもするかぁぁ！！

マスター！　おすすめ4人分くれ！！

かしこまりました。では…………

このお酒の代金は『次に』お越しになった際にいただきましょうか。

……なんて、ね。

ひゅー！！　決めるねぇー！

くく……これは一本取られたな。

よーっし、それじゃ早速………

ズゴゴゴゴゴゴゴ…………

さ！　さっそ………く…………

ズゴゴゴゴゴゴゴ…………

っ…………………

さっそく！！

乾杯しようか！！！

ズゴゴゴ………

ウオッヒョオオオオオオイ！！！

乾杯だぁぁぁぁぁ！！！

うおおおおおおおおお！！！

ずごご……

お、うおーーー！！　うおーーーー！！！！

………う、お………！！

ご……

うおおっしゃあああああああああああ！！！

ああああああああああああああああ！！！！！！

おおおおおお！　俺……！　俺！！！

お前らと会えて………幸せ……だったぞ…………！！

っ！　この……馬鹿野郎っ……！！

最後まで涙は見せないつもりだったのに………そんなこと言われたら我慢できないだろうが………！

………っ、ほら二人ともグラスを持て！　乾杯するぞ！

……ああ！

おう！

では……

俺は、「素晴らしい仲間と出会い、笑い合えた幸せに」――

それなら俺は、「美味い食い物と酒、それとまだ見ぬ未来の嫁」に――

俺は！　「色々な思い出のあるこのバー」に――

私は、「今まで訪れた、全てのお客様」に――

――乾杯ッ！！！

――FIN

ある酒場での一幕

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