第4話 小納戸入鹿【月】

文字数 778文字

「それでは、これより第五回詩歌トーナメント戦第四戦を始めます!」

司会がそういうと、会場は熱気に包まれた拍手が沸き起こった。

司会者のマイクを握る手に汗が滲んでズリ落ちそうになるのを気をつけながら大声を上げなければならなかった。

「えー今回の課題は、月!」

会場のそこここから「おぉ」とか「あぁ」という声が漏れ聞こえた。

お題が決まってから考えるのが即興詩の所以ではあるのだが、そこは通常くじ引きで決められてしまう、このくじ運もやはり実力のうちに入ってしまうのである。

しかし、実際にある程度の実力者どうしになると後攻の方が有利と言うこともそれほどないと言われている。

なぜなら、時間が有ればあるほど考えすぎてしまうし、さらに他の人の詩を聴いて影響を受けない方が自分の色を出しやすいという点もあるらしい。

「それでは、小納戸入鹿君!前へ!」

そこには、まるでプロのミュージシャンが録音するように使う様なマイクが置かれていた。

「はい」

少しだけ息を整えると入鹿は前に進みでた。

最初の一人だけは考える時間が少し多めに許されているが、入鹿はほとんど間を作らずに歌いだした。


「月は浮かぶ

秒速1023メートルで

ぽっかりと浮かぶ

目にも止まらぬ

静けさ漂う

世界中の人を

落ち着かせようと

今日も猛スピードで

世界を巡る

いつも地球に惹かれながら

海と人とをひきかえす

疲れた人を見つけては

小休止でもしないかと

昔々の

星々をたずさえて

1.3秒前の

姿を現す

太陽が登るまではと

戦を止める役目」


少し間が出来る

小納戸入鹿(こなんどいるか)

名前を言う事で終わったことを告げる。

そこここで拍手が起こった。

「静粛に!静粛に!」

司会が会場をクールダウンさせる。

「えー、では極楽寺礼華さん準備が出来たら前へ」

司会が言い終わる前に礼華はすでにステージに上がっていた。

「え?あの、大丈夫ですか?」

「もちのろん」

「も、もちの?では、お願いします」


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