第1話 さる豪邸の一室が見た記憶
文字数 671文字
小高い丘の上にそびえ立つ白亜の豪邸。その一室で年輩の貴婦人が落ち着かない様子で歩き回っている。
「あぁ、やっと私の夢がかなうんだわ。あの憎たらしい亭主に最大の復讐をする時が。この日を何十年待ったかしら」
彼女は更に足どりを早め、独りごとを続けた。
「今まで貞淑な妻を演じてきたのも、この瞬間のため。むかし愛する人から無理矢理引き離され結婚させられた恨み、絶対に忘れないわ」
自分の言葉に勇気づけられるかのように、彼女の胸の鼓動は益々おおきくなっていく。
「医者の話だと、あの人の命も今宵限り。その死の瞬間に私はあの人にこう言うの。このハゲ頭の豚野郎。地獄へ行ってハラワタ引きずり出されやがれ!ってね。私を愛し信頼しきっているあの人を絶望の淵へたたき込んでやるのよ。安らかな死なんて絶対むかえさせないわ」
そして計画を噛みしめるように、貴婦人は呟き続ける。
「あの人がボケてしまわないか、それだけが心配だったけど、衰弱しても頭だけはハッキリしていて助かったわ。私の事がわからないんじゃ、復讐にならないもの。あ~、それにしても食事はまだかしら。もうお腹が減って仕方がない。最後の瞬間のために腹ごしらえしたいのに」
その時、ドアがノックされ執事が部屋に入ってきた。
「奥様、お食事の用意ができました」
甲斐甲斐しく頭を垂れる執事の横をすり抜け、食堂へと向かう貴婦人。
彼女の後ろ姿を見送る執事がつぶやく。
「これで今日、五度目の食事だ。ますます認知症がお進みになられて……。明日は亡くなられた旦那様の十三回忌だということも、おわかりにならないご様子。何とも、おいたわしや」
「あぁ、やっと私の夢がかなうんだわ。あの憎たらしい亭主に最大の復讐をする時が。この日を何十年待ったかしら」
彼女は更に足どりを早め、独りごとを続けた。
「今まで貞淑な妻を演じてきたのも、この瞬間のため。むかし愛する人から無理矢理引き離され結婚させられた恨み、絶対に忘れないわ」
自分の言葉に勇気づけられるかのように、彼女の胸の鼓動は益々おおきくなっていく。
「医者の話だと、あの人の命も今宵限り。その死の瞬間に私はあの人にこう言うの。このハゲ頭の豚野郎。地獄へ行ってハラワタ引きずり出されやがれ!ってね。私を愛し信頼しきっているあの人を絶望の淵へたたき込んでやるのよ。安らかな死なんて絶対むかえさせないわ」
そして計画を噛みしめるように、貴婦人は呟き続ける。
「あの人がボケてしまわないか、それだけが心配だったけど、衰弱しても頭だけはハッキリしていて助かったわ。私の事がわからないんじゃ、復讐にならないもの。あ~、それにしても食事はまだかしら。もうお腹が減って仕方がない。最後の瞬間のために腹ごしらえしたいのに」
その時、ドアがノックされ執事が部屋に入ってきた。
「奥様、お食事の用意ができました」
甲斐甲斐しく頭を垂れる執事の横をすり抜け、食堂へと向かう貴婦人。
彼女の後ろ姿を見送る執事がつぶやく。
「これで今日、五度目の食事だ。ますます認知症がお進みになられて……。明日は亡くなられた旦那様の十三回忌だということも、おわかりにならないご様子。何とも、おいたわしや」