結婚したいこの気持ち

文字数 2,208文字

高層階にあるオフィスから見える景色はもう薄暗く、他のオフィスの明かりがぽつぽつとと見え始める。最近は後輩と僕の三人で納期の近い仕事をこなす日々。今日も残業だろなと思っていると後輩が急に
「先輩最近彼女さんとうまく言ってるんですか?」
と質問してきた。あまりにも急な質問に答えられないでいると
「気になる。先輩いい人だから騙されてないか心配で。」
と質問が重ねられる。
「上手くは言ってるような、言ってないようなかな。」
「前結婚するかもって言ってませんでしたっけ?」
その質問やっぱりくるよねと思いもながら
「それが断られちゃって。」
言いたくないけれど質問されたので仕方なしに答える。
「えっ!?先輩結婚しようって言ってるのに断られてるんですか?」
「なんでですか?結婚したくないかちゃんと聞きました?」
矢継ぎ早に後輩達から質問される。あまりにも二人が信じられないといった顔で見てくるので返事が出来ずうんと小さく頷く。
「すごい空気読めない感じで言ったんですか?確か結構長く付き合ってましたよね?」
結構聞いてくるなと思いながら
「いや、自宅でだよ。あと、付き合って五年かな。」
と正直に返す。
「まじか〜。断られたのにまだ付き合ってて神ですね。」
「純愛〜。先輩のこれからに幸あれ。」
何故か後輩達が勝手に祈り出したので恥ずかしくなってきた。
「ほら早く仕事片付けよう。毎日残業続いてるんだから。」
と話を切り上げると、後輩達はまだ聞きたいんだけどと明らかにわかるようなやる気のない返事を返して、仕事を再開した。

後輩達を先に帰して仕事をきりがいいところまで進め、そろそろ帰宅するかと思い片付けを終えてフロアの電気を消す。窓から見える他のオフィスの電気はまだうちは頑張るぞと言わんばかりに煌々としている。エレベーターを待つ間、プロポーズを断られたのにまだ付き合ってるのは不思議なのか。その感覚が自分にはなかったのでそうなのかと考えてしまう。
絵美と付き合い始めたのは大学生の頃で特に揉め事もなく交際は続き、社会人になった今でも付き合いは続いている。お互い隣にいて当たり前の関係と思っているのでプロポーズしてみたが、答えはNOだった。なんで答えがNOだかわからないので理由を聞いてみたが返事は未だに返ってこない。何度携帯の通知を確認するもダイレクトメッセージばかりで肝心な絵美からの返事はない。小さくため息をつき、到着したエレベーターに乗った。

次の日とんとんと肩を叩かれて後ろを向くと
「先輩今日ランチしましょうよ。」
後輩がニコニコしながらランチに誘ってきた。昨日の話の続きが聞きたいんだなと察しいいよと答えると同時に大きく腕で丸を作ってもう一人にOKを伝えている。これは根掘り葉掘り聞かれるなと思い覚悟してランチに向かうことにした。
「改めて聞きますけど、なんで断られちゃったんですか?」
「先輩悪くないのにな〜。」
三人の注文が終わると同時に後輩達が口を開く。
「それがわからないんだよね。なんでだろ?」
「うわ〜なんでだろうって聞いちゃうところがまた先輩ぽい。そういうところじゃないですか?断られたの?」
「いやいやそんなことは長年付き合ってればわかってるでしょ。もっと違うところだよ。」
普段からはっきり言う後輩達だとは思っているが今日は一段と心に響く。
「前から結婚の話をするといまいち乗り気ではなかったんだよね。返ってくる答えも抽象的だったし。」
「抽象的って?」
「なんか生活が変わっちゃうとか、自分じゃなくなるとか。よくわかんなくて流してたけど。」
「難しいですね。先輩が嫌っていうより結婚が嫌って感じなんですかね。」
「はぁ〜難しい。そういうパターンもあるのか。結婚が何で嫌なのかは聞いたんですか?」
「聞いてないよ。なんで断られたかの返事も返ってきてないのに。」
「既読無視か。」
「返事が返ってこないなら、嫌な理由一緒に考えてみたらどうですか?先輩あんな部長のどうでもいい相談にのれるんだし。」
本当にこの二人ははっきりと言うなと感心する。
「とりあえずまたLINEしてみてください。ファイトです!」
「先輩の純愛応援してますから!本当溺愛で純愛ですよ。」
二人揃って両手で指のハートをつくりながら、満面の笑顔で僕を見てくるので思わず笑ってしまった。
「はいはい。ほら早く食べないとお昼終わるよ。」
本当にこの二人はいつも前向きで後輩なのに元気を貰えるよと思いながらも、全く箸が進んでない二人を催促し自分も少し冷めたご飯に手をつけた。

確かに理由を尋ねる事はあったけれど一緒に考えるという発想はなかった。デスクに戻ってしみじみと考える。なんで結婚が嫌なのか詳しく聞いてみて、理由を一緒に考えてみるか。部長の突拍子もない相談を聞くのと同じだな。確かになと思って笑ってしまう。前向きな気持ちさせて貰って本当にあの二人には完敗だ。さてまずはこの仕事の山を片付けるか。そう思い手を付けてなかった仕事の山に手を伸ばした。
結構な時間集中してたのだろうか。気がつくと窓の外の景色は薄暗くなり始めている。集中していただけあり、書類の山も大分減った。今日は勝負のLINEを送るからもう帰るとするか。送る文面は
「何で結婚が嫌なのか一緒に考えよう。」
しよう。何せ溺愛で純愛だからな。思い出し笑いを堪えてながら帰り自宅をする。携帯の通知を確認するが未だ絵美からの返信はなし。けれど心は昨日よりも晴れやかだ。
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