大成功の代償

文字数 811文字

「すいません、我々にも職業倫理が有りまして……同じ願いを既にされている方が居ますので……」
 ある国の首相に呼び出された悪魔は、願いの内容を聞いた途端、申し分けなさそうに、そう言った。
「……誰だ、願いの主は……?」
「我々にも、人間界の個人情報保護に相当する規則が有りますので……」
 だが……その願いをやりそうな人間は、山程、心当りが有った。
 この国の人間の中にも、そうでない者も……。
「わかった……。つまり、私の魂を売らなくても、私の願いは叶う、と云う訳だな」
「はい……その通りです……。ですが、一言、忠告をしておきます」
「何だ?」
「総理大臣閣下と同じ願いをされた方から……魂はいただいておりません」
「はぁっ?」
「その方と、総理大臣閣下の共通の願いが叶った場合、約85%の確率で、この国の人間の半数以上が、死後地獄に落ちる状況が最低でも10年は続きます」
「ま……待て、私の願いが叶ったら……何故、そんな事が起きる?」
「それは……この国の国民の多くが、この世に正義は有ると云う信念を捨て、希望を失い、他者への思いやりを無くしてしまう状況に陥るからです。信仰と希望と愛を失なった魂は、我々のモノになります」
「だ……だから……どう云う事だ?」
「せいぜい……御用心を……」
 そう言い残して、悪魔は消えた……。

 「近代オリンピックの歴史を終らせた。最早、二度とオリンピックは開催出来ない」と言われたほどに失敗した、ある年のオリンピックは、時のICO会長フォン・ヴォッタクル男爵が悪魔と取引を行なった結果、歴史改変・現実改変が行なわれ、「その年のオリンピックは歴史に残るほどの大成功となった」と云う新しい歴史が作られた。
 そして、改変前の歴史では、オリンピック失敗の戦犯として、政治生命を失なった無能なオリンピック担当大臣は、改変後の歴史では、オリンピックの「()()()」が契機となって国民を支持を集め……数年後、その国の首相の座についた。
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