第1話

文字数 1,955文字

同じ子ども会だった高1のひーちゃんはいつだってわたしの先を行く。目玉焼きをカレーライスにのせるとおいしいことも、ドリンクバーのレモンスカッシュとコーラを混ぜることも全部ひーちゃんが教えてくれた。スポ少だって小6だったカッコいいひーちゃんと一緒にやりたくて小2から始めた。でも全然上手くならないので、最近はやる気が出ない。だからここのところ土日はちょっとサボってずっとゲームばかりやっていた。

「みつる!アマド3出るよ!」
わたしの部屋に遊びに来たひーちゃんは、いつも買ってる少年雑誌を開いて特集記事を指さした。アマドことアーマードヒーローズは人気の格闘ゲームだ。アーマードと呼ばれる特別な姿になると特殊な技が使える。10月に新作が出るので私の周りは新キャラや新しい技についての話で持ちきりだった。
「知ってる。みんな買ってもらうって言ってたよ。」
10月生まれのモリケンとなべちゃんは誕生日に買ってもらうらしい。わたしはクリスマスまで待たないと買ってもらえないのに!わたしと誕生日を代わってほしいと思った。
「それだけじゃないよみつる。なんとシノブとマッハの子どもが出るらしい!」
「それは絶対強いね...」
「でね、今度の日曜にやる万国ゲーム博覧会ってイベントに行くとアマド3を発売日前にプレイできるんだって!」
「絶対行く!」
10月生まれの子より先にアマドができるなんてすごいラッキーだと思った。
「でもめっちゃ朝早いよ?みつる起きられるの?」
試合とかで慣れてるから大丈夫!と言うとひーちゃんは一緒にお互いの親にお願いしに行ってくれた。そしたら、帰りが遅くならないことを条件に行っていいことになった。子どもだけで東京に行くなんてはじめてなので、大冒険に行く気持ちになった。

前日に荷物を準備して、次の日朝5時前に起きると外は真っ暗だった。朝ごはんを探しに台所へ行くとお母さんが起きててビックリした。
「東京行く頃にはおなか空くでしょ、しっかり食べな。」
そう言ってたきたてご飯でふりかけおにぎりを作ってくれた。
身支度をしてお父さんに駅まで送ってもらうと駅の改札前でひーちゃんが待っていた。
「みつる!みつるパパ!おはよう〜帰りは絶対遅くなんないようにするから任しといて!」
そう言ってひーちゃんは親指を立てた。なんだかいつもよりずっと頼もしい。
改札を抜けて駅のホームで少しひんやりしたベンチに2人で座って電車を待つ。見上げた空は夜と朝が混ざった色をしていた。明るさに迷うように、ホームの明かりはチカチカまたたく。しばらくすると朝一番の電車がやってきた。誰もいない電車ってなんだか特別な場所へ連れていってくれそうだなあとか思っていたら座席の隅でいつのまにか寝ていたらしい、乗り換えの駅に着くとひーちゃんが起こしてくれた。ウトウトするのとおしゃべりを繰り返しているとあっという間にイベント会場に到着した。

会場案内を見ながら2人でアマド3の試遊コーナーに並んだ。ここではゲームの先行体験を試遊というらしい。なんだかカッコいいなと思った。初めは並ぶのも平気だったけど、ずっと立ちっぱなしでいるのは疲れてきた。列がちょっとずつしか動かないのが辛くて、今すぐしゃがみたくなる。気分を変えようと思って足首をぐるぐる回していると
「みつる、これ食べな。」
そう言いながらひーちゃんはわたしの手のひらにキャラメルを載せた。疲れているのを見抜かれたのかもしれない、口に入れるとなんとなく元気になった気がした。じわじわ広がる甘さを味わいながらキャラメルって食べるものなのか、なめるものなのかとか考えていると、ついに自分の番が回ってきた。ここでは10分しかプレイできないらしい。でもバトルモードは1回2分なので頑張れば3、4回遊べるはずだ。そう思って始めるとつい気になって新しい姿のヒーローたちを確認していた。カーソルを動かしてはキャラクターをじっくり眺めていると「あと5分です」という声が聴こえて、慌ててバトルモードを開始した。
操作するのはもちろん前作のボスキャラであるシノブとマッハの子ども、ジュニアだ。意外と操作しやすくて驚いた。もうすぐでアーマードモードになりそうだったのに、隣の人の違うアーマードに気を取られて負けてしまった。
試遊コーナーから離れて話を聞くとひーちゃんは3回もバトルできたらしい。3回ともアーマードまでいけたなんてさすがだ。

それから家に帰って、自分の部屋で会場でもらったアマド3のパンフレットを広げた。夢じゃない、ちゃんとアマド3をプレイしてきたんだ。その嬉しさで胸がいっぱいになった。
いつもは嫌いな月曜だけど、明日学校に行ったらモリケンとなべちゃんにアマド3も最高だよって教えてあげよう。ちょっとウキウキしながら部屋の明かりを消した。
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