短編『善き国』

文字数 582文字


王様「またジャガイモのスープだけか」
執事「当然でございましょう。お金がないのですから」

王様「しかしの、先日街で民が肉を食しているのをみかけたぞ」
執事「あれは大工でございますゆえ」

王様「大工じゃからなんというのじゃ?」
執事「大工は家を建てておりますゆえ」

王様「他の者はパンを食べておったぞ」
執事「あれは、道路建設の者でございますゆえ」

王様「道路を造る者じゃからなんじゃ?」
執事「彼らは力仕事。パンを食さねば仕事にならず、仕事にならねば道ができません」

王様「わしも肉やパンが食べたいぞ」
執事「陛下はなにをしておいでで?」

王様「わしは王をしておる」
執事「では、どのような仕事を?」

王様「いろいろじゃ。たとえば、裁判も余の名でしておる」
執事「確かに陛下の名で行われます。が、裁判しているのは大法官様でございます」

王様「で、では、この国の国民を飢えさせないように守っておる」
執事「穀物は農民がつくっておりまする。パンはパン職人が。陛下はなにをお作りに?」

王様「さ、先の道路も余が財の支出を命じたから造れたのではないか!?」
執事「原資は国民の税であります。陛下は単に命じただけです」

王様「し、しかし、余があそこにせよと命じたからできたのじゃ」
執事「そこに道路を造る計画は官僚と設計士によって作られました。陛下はただそれをよしとしただけです」

王様「ジャガイモのスープでよい・・」



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