第1話

文字数 1,531文字

みみっちにしかならなかった。
みみっちとは、北欧リーグのサッカー選手でもアイドルグループの女の子でもない。
たまごっちの話だ。

日本中で大流行していたたまごっち。
当時、小学校高学年だった私は欲しい欲しいと親にねだり、遂に買ってきてもらった。
入手困難なたまごっちをバカ息子に与えておとなしくさせるため、
母親は始発電車で横浜そごうに並び、2個のたまごっちを購入してくれた。
白と赤の2個。
初代たまごっちの次に発売された、新種発見!!たまごっちだった。

私は赤色、母は白色のたまごっちをプレイ。
たまごから生まれたベビーっちを育てていく。
新種発見!!たまごっちの進化過程は以下の通り。

■たまご→幼児時代(ベビーっち)
・しろべびっち
・とんまるっち

■子ども時代(こどもっち)
・とんがりっち
・はしたまっち

■大人時代(アダルトっち)
・みみっち
・ポチっち
・ズキっち
・たこっち
・くさっち
・はしぞーっち

幼児以降はプレイヤーの育て方で成長するキャラが変わるのが、たまごっちの大きな魅力のひとつだ。でも私は何度プレイしても、みみっちにしかならない。できない・・・。

みみっちの特徴はマジメであること。
お腹が減ったらすぐにごはんを与える、ご機嫌が悪くなればすぐに楽しませてあげる。
そうやってプレイヤーがマメに育ててあげて成長した姿が、みみっちである。
神経質な私は良い意味でも悪い意味でもいい加減に育てることができなかった。

・雑誌を読むなら、活字を隅々まで読んでいく
・部屋に置いてある物の位置がずれていたら、すぐに直す
・物事は1か0でないと気が済まず、間をとることができない

30才を超えた今でも抱えている自分の神経質な面が、
小学生のころはもっと顕著だったように思う。
『コロコロ』や『少年マガジン』を読んでいて、例えば懸賞の商品掲載ページがあったなら、
そのページ隅にある©バンダイとかまで読むヤツがいるか?
友だちが家に来た後、まずやることといえば、マンガを巻ごとにきちんと並べなおして、
様々な物の位置をセットし直さなければ、気がすまない子ども・・・嫌なガキだよ!
(潔癖症ではないので、埃とかそういうのはそれほど気にならない質)
夏休みのラジオ体操で開始に間に合わないことがあって、「1分ぐらい遅れても大丈夫なんだから、行ってきな」と言われても、「最初からでないと意味がない。嫌だ嫌だ」と泣きそうになっている幼いころの自分――。

こんな神経質な子どもが新種発見!!たまごっちをプレイしても、みみっちにしかならない。
もっといい加減で良いんだよ――20数年前の自分に声をかけてあげたい。

一方、白いたまごっちをプレイする母親の方は。
何だか怪しげな、ズキっちに進化していた。
忘れもしない、夏休みの家族旅行で移動中、車の中で母のたまごっちを見せてもらうと、力士みたいな見た目の隠れキャラ「せきとりっち」に進化しているではないか。
「何これ。そんなに凄いの?」
全く楽しむことなくたまごっちをプレイしていた母だからこそ、隠れキャラのせきとりっちに進化できたのだろう。凄い!

たまごっちに飽きてしまったのは、毎度毎度みみっちみみっちみみっちだったからか。
それとも、ボタン電池の寿命が切れるとともに、プレイしなくなったのか。
(当時の私の家には小さなドライバーが無かった。小学生にとって、これは致命傷だ。ボタン電池の交換もミニ四駆の組み立てもできず、必要なたびに友だちの家で借りていた)

初代たまごっちの隠れキャラは、見た目がオヤジのおやじっちだ。
おやじっちほど老けてはいないが、私ももうだいぶオヤジになりつつある。
懐かしいたまごっちの音が聴こえてきそうだが、両サイドのボタンを同時に押して消しておこう。小学校に持ち込んだあの日のように。
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