第6話  【誘拐】

文字数 1,323文字


1970年それは由美とテレクラで出会う10年程前の事だった。


杉並区の幼女が習い事の帰宅途中で行方不明となった事件事故の両面で捜査が行われた。

メディアでも話題となり、大々的に公開捜査が行われた。



習い事の場所から幼女の自宅までわずかな距離で自然環境の事故はあり得なく、

連れ去り事件だと断定され、不審者 不振車両の情報を募ったが幼女の発見に至らなかった。

月日は流れ事件は風化した。



由美の記憶は曖昧で、当時6~7歳だったと語った。

俺が調べた所由美は当時6歳だった。故に由美は現在17歳だった。



テレクラで初めてあった由美は、自らの年齢を24才と称し、

既婚者であるとも言っていたが、それは方便だった。



由美は誘拐されていた。国立のマンションの一室に10年間監禁されていたのだ。

由美は言う。この2年程外出したりをジジ〔監禁犯人をジジと呼んでいた〕に許されて、

買い物等に独りで外出していた。



その折にテレクラにアクセスして俺と知り合ったということだった。

長い監禁状態だったが幼さ故の環境順応で精神を病む事なく推移したのだろう。

由美は本名すら忘却していた。当然住所も忘れた。



1982年1月10日に俺と最後に会った少し前にジジが自宅マンションで

動かなくなったと由美は言う。どうもジジは動かなかった、死んだ?

暫く前から体調崩し由美の世話が出来なくなっていたようだ。然るに由美は飢え痩せていったようだ。



1月10日に俺と会って以降も由美は腐るジジと暮らし、ジジの残した僅かな

現金で食料を調達していたが、程なくそれもなくなって衰弱したようだ。



由美の唯一の頼りは俺だった。由美はラブホテルで俺の目を盗んで

財布から身分証を見ていたそうだ。

そしてそれを頼りに国立から徒歩にて我が家に辿り着いたのだ。



幸いなことに警察官に俺が由美を知人であると確認したので、

由美は身分を詮索されず、我が家に辿り着けたのである。



監禁生活がどんなであったか俺は聞かないでいた。

由美は意外にも監禁状態を苦にした言動は無くて、ジジが動かなくなった後の惨状を恐怖と共に回想していた。

俺は衝撃と共に由美の話しを聞くのであった。



翌る日俺は通常勤務に出掛けた。

勤務に出掛けたとはいえ頭の中は由美の告白でいっぱいだった。

この先俺は由美をどのように処するべきか、答えは程なくまとまった。



これは俺が抱えられる問題では無い。直ちに司直に委ねるべきだと俺は考えた。

由美に相談せずその場で顧問弁護士に連絡し由美の身柄を警察に委ねる事にした。



その日、警察は迅速に対応した。日のあるうちに由美は保護されていった。

俺は由美に改めて連絡先を渡して言葉を交わすことなく離れ離れになった。



世間は何処から情報を入手したのか幼女発見の報を大々的に報じた。

俺の素性も知る所であったが、顧問弁護士の迅速な対応で、俺が好奇の目に

曝されることはなかったが、身辺は動揺した。



最たるものは警察の聴取だった。任意だったが毎日行われた。

俺は弁護士と打ち合わせてありのまま話すことにした。

結論はお咎めなしで保護救出に寄与したとして好意的な扱いとなった

。顧問弁護士の働きに因るところが大きかった。



一方ジジこと誘拐監禁犯人は素性が晒され犯人死亡で送検されることになった。
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