愛してなんて言わないよ。

文字数 1,668文字



『お前、何で生きてんの?』



大好きな彼に言われた一言だった。

私は、彼のことを愛していた。


彼は、自由奔放な性格だった。
私の事は〝都合の良い女〟としか思っていない。


彼と出会ったのは...
冷たい風が通り抜ける12月の夜。



『お姉さん〜こんばんは〜♪
そんな急いでどこいくの〜?』



『え?...友達とご飯に...』


ふと顔を上げると
ブラウンの髪に肌は白く
女の子のように綺麗な長くて細い指。
人差し指には、シルバーリングが輝いていた。

綺麗な鼻筋。
まつげは長く、目はキリッとした二重。
並ぶのが恥ずかしいほどの美形な男性が
とても優しい笑顔で立っていた。



あまりの美形に、動揺してしまった。

『え?...す、スカウトですか?』

ここらへんじゃ、スカウトマンが多かった。
この人もその1人だろう。


『ちがうよ!ナンパだよ〜
あまりにも可愛いからさっ♪よかったら、連絡先教えてよ〜!』




それが彼との出会いだった。



出会った頃は、仲良くしてたのに
いつからこんなことになったのだろう。

きっと、その時から私の事なんて...

そんな事が頭を過ぎる中
怒鳴り声が聞こえる。


彼は胸ぐらを掴みながら荒々しく言った。

『おい、聞いてんの?!
お前ほんとゴミ以下だな、何の価値もないよ。
お前と関わってたら、俺までゴミ以下になりそうだわ。早く出てってくれよ。』


そういうと、彼は
手をかけていた私の服を力強く離した。


『...わかったよ。』
私は、ぐしゃぐしゃに荒れた部屋から
腰を起こすと立ち上がり、自分の鞄を握ると
玄関に歩き出す。


『おい、待てよ。俺の部屋荒らしたくせに
そのまま帰んの?片付けて帰れよ。
まじでお前なんかと関わんなきゃよかったわ。 お前ホント嫌い。てか、もーどーでもいいわ。』


私の目から涙が溢れ出す。


『私の事、好きだって言ったじゃん!!
私と関わって幸せになったって...
そう言ったよ?』


私は感情が溢れ、彼に怒鳴りつける。
涙がポロポロと零れ落ちる。


『は?そんなこと言った?
ごめん、謝るわ。俺の頭がおかしかった。
しかもそれ、過去の話だろ?今は変わったんだよ。お前の顔も見たくないわ』


『...もういいよ...』



私は、玄関にあった靴を履き
玄関のドアを力強く閉じた。
(バンッ)

『おい!!!』

後ろから声が聞こえる。
そのままエレベーターへと歩き
涙が溢れる中
エレベーターのボタンを押した。

道行く人の目はこちらを見ていた。
それは、そうだろう。
早朝に、ブロンドで腰まである長い髪を巻いた
ピンクのワンピースの女の子が
号泣しながら歩いているのだから。


最寄りの駅から、自宅までの距離が
長く感じる。
涙で滲んで、電車の文字も霞んでみえた。



もう、何も見えないよ...
 
なんでこんな事してるんだろう...
彼の家に行くと毎日のように喧嘩をしては
帰ってきていた。
一番多い喧嘩の原因は、女関係だった。


彼は、色々な女の子と遊んでは
飽きたら私を呼んでいた。
そんな私は、女の影に気づいてしまう。
問い詰めると、自分が傷つくのに...
毎日、同じことの繰り返しだ。


(ピロン)
携帯の通知が鳴る。


彼からのメッセージ。

[ごめん、言いすぎた。
やっぱお前がいなきゃだめだ。
好きだ。会いたい...。]

確認すると、携帯を床に伏せて置いた。


彼の言葉の〝好き〟の中身が
空っぽなのはわかっていた。

彼が私だけを
愛してくれないのもわかっていた。


他に女がいる事も...他に女がいない時
寂しくなって私を呼ぶ事もわかっていた。


他に女がいると、私を呼ばない事も...



それでも私は、彼を愛していた。



(はあ...)
ため息をつくと
私は伏せた携帯を取り
彼のメッセージに返信をした。




[今すぐ行くね。]



〈完結〉

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