第1話
文字数 2,054文字
「ねえ、みんなまだ時間ある? 明日早い?」
居酒屋を出て、駅まで向かっているなか、リナは言った。私とその隣にいるアキラは顔を合わせ、その後「まだ大丈夫」と私が返した。アキラはそれに頷く。
「そう。じゃあさ、コンビニでお酒でも買って軽く歩かない?」
「うん、いいよ」
と、言ったものの、いざコンビニ入るとあったかい飲み物に釣られ、私はコーヒーを手にしていた。寒風が吹くなかで、唯一私の手の中は温かい。
コンビニから他の二人が出てくると、二人とも手にしていたのは私と同じコーヒーだった。
「え、お酒じゃないの?」
「それ、ミズキが言う?」
リナは笑う。
「いや、リナが最初に言ったんだから」
私が抵抗していると、アキラはもうコーヒーを飲んでいた。それを見てもうどうでもよくなって、歩き始めた。
都会の二十一時は元気だ。そびえ立つビルを見渡せば、どこにも照明がついているし、人通りも多い。
私は夜に街を歩くのが好きだ。何故かワクワクする。それは田舎者の血があるからだろうか。ビルの光に、きらめく車のライト。横断歩道を歩くときは、芸能人が壇上に上がってライトを受けるものと同じ感覚な気がしている。芸能人じゃないので、わからないが。
私はビルを眺めながら、言った。
「どっか、行きたいな」
前を歩く二人は振り向き、はてなを浮かべた顔をしている。
「どこかって、どこ?」と、リナは返してくる。
「どことかではないけど、どこかに行きたい」
「出たよ、ポエマー」
リナは笑う。
「馬鹿にしないでよ」
「いや、してないよ。てか、この前言ってたシナリオの仕事? だっけ。どうなったの」
「ああ。まあ続けてるけど。別にデビューするとかには関係しないかな」
「そ。まあ、むずい世界だもんねえ。私には創作とか、ほんと別世界すぎて、よくわかんないなあ」
リナはそれで話を終わらせた。二人は私の先をどんどんと歩いていく。
私は立ち止まり、
「ねえ! 帰っちゃったらさ、今日が終わるじゃん。だからどこかへ行って、続かせたいんだよね」
と言った。二人は振り向く。
「続けるって言っても、明日みんなバイトと学校じゃん」
大真面目なリナには冗談も通じない。
「そうだけど……」
私はため息を吐いた。
「私はわかるよ。どっか行く?」
アキラは私の瞳を見て、言った。
「お、まじ? どこ行く?」
「いやいや。何言ってんのアンタたち。ミズキはバイトで、アキラは学校でしょ」
「別に休んじゃえばいいじゃん」
アキラは何の変哲もないように口にした。
「アキラは明日必修の授業入ってるし、そもそもミズキは休めないでしょ?」
「いいよ、休む。代わりの子すぐに見つけられるし」
「何言ってんの!?」
リナは冗談が冗談ではなくなってきたと思ったのか、焦っている。
「え、アキラ本当に行く? なら私今からもう代わりの子に声かけるけど」
「うん、いいよ」
「まってまって。そもそもどこ行くのよ」
アキラと私は顔を見合わせ、言った。
「わかんない」
私とアキラは、大阪駅行きの夜行バスに乗った。リナはずっと不満を垂らし、帰って行った。
後ろから二列目の席を確保し、窓際に私、通路側にアキラが座ることになった。
「よかったの? アキラ、明日必修なんじゃ」
アキラは前を向いたまま答える。
「うん。最近、大学行く意味がわからなくなってたから。逆にミズキは? いいの?」
「いいよ。私もおんなじようなもんだから」
バスが動き出し、私はカーテンをほんの少しだけ開けて窓を見た。雨が降り出したのか、水滴がぽつぽつとついていく。
働く意味も、フリーターを続ける意味もわからなくなっていた。大人になることは諦めることだなんて、どこかで聞いた。
諦めきれない私は、いつになったら大人になれるのだろう。
眠っていたら、知らぬ間にもう朝方であった。隣を見ると、アキラは起きていて「もう着くよ」と小声で言った。
「ああ、うん」
と返し、また眠りに入った。
そうして、私たちは大阪に着いた。二人とも荷物は小さな鞄しか持っておらず、他の乗客たちがスーツケースを持っていることで浮いていた。
私たちはバスから降り、立ち尽くしていた。
「着いたなあ」
「そうだねえ」
と、軽く会話を交わし、ただ私たちは停留所で立ち尽くしていた。私は空を眺めた。それからしばらくして、スマホから通知音が鳴る。見てみると、リナからのメールだった。
『今から新幹線で大阪向かうから、まだ観光しないで!』と、書かれている。
「リナ、これから来るって」
私が半笑いで言うと、アキラも笑った。
「結局来るの? ウケる」
「リナ、真面目なのによくやったわー」
私は側にあったベンチに腰掛けた。
「ね」
アキラも隣に座ってくる。そのタイミングで私はまた口を開いた。
「ねえ、一つ言っていい?」
「うん」
「家、帰りたい」
「わかるー」
私とアキラは仰向けに倒れるように座り、空を見上げていた。
「結局、どこへ帰りたかったんだろ」
そう私が呟くと、アキラは、
「どこ、とかじゃなくて、どこかなんじゃないの」
と、言った。
居酒屋を出て、駅まで向かっているなか、リナは言った。私とその隣にいるアキラは顔を合わせ、その後「まだ大丈夫」と私が返した。アキラはそれに頷く。
「そう。じゃあさ、コンビニでお酒でも買って軽く歩かない?」
「うん、いいよ」
と、言ったものの、いざコンビニ入るとあったかい飲み物に釣られ、私はコーヒーを手にしていた。寒風が吹くなかで、唯一私の手の中は温かい。
コンビニから他の二人が出てくると、二人とも手にしていたのは私と同じコーヒーだった。
「え、お酒じゃないの?」
「それ、ミズキが言う?」
リナは笑う。
「いや、リナが最初に言ったんだから」
私が抵抗していると、アキラはもうコーヒーを飲んでいた。それを見てもうどうでもよくなって、歩き始めた。
都会の二十一時は元気だ。そびえ立つビルを見渡せば、どこにも照明がついているし、人通りも多い。
私は夜に街を歩くのが好きだ。何故かワクワクする。それは田舎者の血があるからだろうか。ビルの光に、きらめく車のライト。横断歩道を歩くときは、芸能人が壇上に上がってライトを受けるものと同じ感覚な気がしている。芸能人じゃないので、わからないが。
私はビルを眺めながら、言った。
「どっか、行きたいな」
前を歩く二人は振り向き、はてなを浮かべた顔をしている。
「どこかって、どこ?」と、リナは返してくる。
「どことかではないけど、どこかに行きたい」
「出たよ、ポエマー」
リナは笑う。
「馬鹿にしないでよ」
「いや、してないよ。てか、この前言ってたシナリオの仕事? だっけ。どうなったの」
「ああ。まあ続けてるけど。別にデビューするとかには関係しないかな」
「そ。まあ、むずい世界だもんねえ。私には創作とか、ほんと別世界すぎて、よくわかんないなあ」
リナはそれで話を終わらせた。二人は私の先をどんどんと歩いていく。
私は立ち止まり、
「ねえ! 帰っちゃったらさ、今日が終わるじゃん。だからどこかへ行って、続かせたいんだよね」
と言った。二人は振り向く。
「続けるって言っても、明日みんなバイトと学校じゃん」
大真面目なリナには冗談も通じない。
「そうだけど……」
私はため息を吐いた。
「私はわかるよ。どっか行く?」
アキラは私の瞳を見て、言った。
「お、まじ? どこ行く?」
「いやいや。何言ってんのアンタたち。ミズキはバイトで、アキラは学校でしょ」
「別に休んじゃえばいいじゃん」
アキラは何の変哲もないように口にした。
「アキラは明日必修の授業入ってるし、そもそもミズキは休めないでしょ?」
「いいよ、休む。代わりの子すぐに見つけられるし」
「何言ってんの!?」
リナは冗談が冗談ではなくなってきたと思ったのか、焦っている。
「え、アキラ本当に行く? なら私今からもう代わりの子に声かけるけど」
「うん、いいよ」
「まってまって。そもそもどこ行くのよ」
アキラと私は顔を見合わせ、言った。
「わかんない」
私とアキラは、大阪駅行きの夜行バスに乗った。リナはずっと不満を垂らし、帰って行った。
後ろから二列目の席を確保し、窓際に私、通路側にアキラが座ることになった。
「よかったの? アキラ、明日必修なんじゃ」
アキラは前を向いたまま答える。
「うん。最近、大学行く意味がわからなくなってたから。逆にミズキは? いいの?」
「いいよ。私もおんなじようなもんだから」
バスが動き出し、私はカーテンをほんの少しだけ開けて窓を見た。雨が降り出したのか、水滴がぽつぽつとついていく。
働く意味も、フリーターを続ける意味もわからなくなっていた。大人になることは諦めることだなんて、どこかで聞いた。
諦めきれない私は、いつになったら大人になれるのだろう。
眠っていたら、知らぬ間にもう朝方であった。隣を見ると、アキラは起きていて「もう着くよ」と小声で言った。
「ああ、うん」
と返し、また眠りに入った。
そうして、私たちは大阪に着いた。二人とも荷物は小さな鞄しか持っておらず、他の乗客たちがスーツケースを持っていることで浮いていた。
私たちはバスから降り、立ち尽くしていた。
「着いたなあ」
「そうだねえ」
と、軽く会話を交わし、ただ私たちは停留所で立ち尽くしていた。私は空を眺めた。それからしばらくして、スマホから通知音が鳴る。見てみると、リナからのメールだった。
『今から新幹線で大阪向かうから、まだ観光しないで!』と、書かれている。
「リナ、これから来るって」
私が半笑いで言うと、アキラも笑った。
「結局来るの? ウケる」
「リナ、真面目なのによくやったわー」
私は側にあったベンチに腰掛けた。
「ね」
アキラも隣に座ってくる。そのタイミングで私はまた口を開いた。
「ねえ、一つ言っていい?」
「うん」
「家、帰りたい」
「わかるー」
私とアキラは仰向けに倒れるように座り、空を見上げていた。
「結局、どこへ帰りたかったんだろ」
そう私が呟くと、アキラは、
「どこ、とかじゃなくて、どこかなんじゃないの」
と、言った。