名のないオバケ

文字数 563文字

私はオバケである。

妖怪などと忌まわしく扱われる場合があれば、
妖精として貴重がられる場合もある。

地域によっては呼び名は様々だが幽霊、
ゴースト、ファントムなどとも呼ばれる。

歴史は長く種類は豊富ではあるものの、
個別の名前、固有名詞はまず無いのである。

中には生霊と呼ばれるものもあるが、
生物学として扱われることもない。

見間違い、勘違いから生まれたに過ぎない
想像の産物に尾ひれが付いたりもしたものだが、
印刷の普及や機材の発展で18世紀から20世紀に
地域ごとに爆発的に広まりを見せると、
さらに情報通信技術によって世界中に広まった。

それがブームの終わりであった。

デジタル機器が広まった現代において
オバケの信憑性はまたたく間に薄れ、
『オバケめだか』や『オバケ野菜』など
ほとんどが変異を示す形容詞に化けた。

化け物の正体見たり枯れ尾花。
オバケ業界も栄枯盛衰である。

夏場の旬を過ぎたオバケたちは、
どうやって生きていけば良いのか。
生き辛い世の中になったものだ。

さて21世紀にもなって名前も無いのでは、
遅まきながらSNSデビューさえままならない。

オバケはヒトに観測されてこそ
オバケ足りうるものであるが、
SNSは名のあるヒトしか使えない。

こうして承認欲求を満たせずさまよう
オバケにとって、匿名掲示板こそ
お似合いの場所かもしれない。

なんせ私はオバケである。
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