いいわけ

　今年初の最低気温を更新したんじゃないかと疑う位に冷えた夜。

　雲一つ存在しない、煌く星空を一望できる拓けた所にある簡素な公園のブランコに腰掛けていた。

　君は僕らの間に漂っていた重苦しい沈黙を破る様に呟く。

　謎解きみたいな呟きになんて返事をすればいいのか思いつかず、この場に相応しい言葉が何かを考えながら足元の地面を眺めて土を蹴っていた。蹴る度に鎖が揺れ動いて小さな音が生み出されていく。

　それは今の僕の心境を表しているような、頼りなくて今にも消え入りそうなか細い音色。

　その小さな音に被せて発した、震える自分の声。

　きっぱりと言い切った君の横顔を流し目で盗み見ていたら、前を見据えて平然と言い退けた君の顔は憂いを帯びているように見えたんだ。見るに耐えられなくて、月明かりに照らされて浮かび上がる白い吐息の行き先に視線を移して眺めていた。他の言葉が紡ぎ出されるのを期待しながら。

　言われるがままに顔を上げると、今にも吸い込まれてしまうんじゃないかと錯覚するほどの広大な星空が出迎えて、視界一杯に埋め尽くされていく。

　様々な大きさの光が、黒々とした夜空の中から存在を主張する様に明かりを点している。

　時たま吹き付ける冷えた風が顔をなめまわすから、その度に寒さで瞼を閉じてしまい星の姿が掻き消える。

　闇に別れを告げる様に瞼を開いて、星空から君の顔に視線を移せば、真剣な眼差しで見つめ返されて目を逸らしてしまった。

　真意を汲み取れなくて、君の思いを受け止められなかった僕。

　君はブランコから降りると同時に、投げ捨てるように吐き出した。

　かける言葉を躊躇ったせいで、君は後ろを振り向く事もなくこの場を後にする。

　遠ざかる足音に混ざる、小さく揺れ動いている空っぽのブランコ。

　僕には見えていなかったんだ。

　君の心はすでに僕に向かってなかった事に。

　滲んできた涙を零さない様に顔を上げると、過去の光が眩しく感じられたんだ。