第1話

文字数 1,995文字

コロナ禍で分断された家族

 私は70歳になった2019年12月に、アルバイトをやめ家族を訪ねる旅に出ようと思っていた。
 そんなときパンデミックが新型コロナウイルス感染症という名前でやってきた。コロナ禍は急速に広がり、2020年4月7日に東京都など7都府県に緊急事態宣言が出され、4月16日に全国に拡大した。
これによって私の家族は分断され、自由に外出することが出来なくなった。
「今週末に東京に行こうと思うけど」
 娘に電話した。
「お父さん、今コロナで駄目だよ出歩いたら。落ち着くまで待って」
 拒否された。次に広島に住む息子に電話したが、「親父、今頃出歩いたらブーイングだよ辛抱して」と言われた。このようにして家族の交流が分断された。そして長期間、家族が会いたいが会えない状態になった。子供には親元を離れ活躍して欲しくて積極的に外に出した。それは会いたいときにはいつでも会えることが前提だった。その前提が崩れた。コロナ禍は、私たち家族の『交流』のあり方を変えてしまった。家族と会えないつらさを痛感した。

 この時の私の気持を素直に表現すれば、「私の家族はコロナ禍の直撃を受け、ズタズタに分断された」との言葉になる。長女の夫は医療関連の研究職、長男の妻は看護師。いずれもコロナ対応の直接の担当ではないが、週1回応援要員としてコロナ関連の業務につくため、自らを律する生活が続いている。それぞれの家族には2人ずつ孫がおり、現在小2~中1。孫が「旅行に行きたい」と私にねだっても、両家族とも遠出はもちろん、市内からも出ないようにしているという。

 コロナ禍前は私の家を中心に年に5~6回は行き来していたが、昨年はパタリと途絶えてしまった。電話は何度かしたもののもって数分だった。今年の正月もビデオ電話で、孫の工作、書き初めを見せてもらい、学校での出来事を話したが、味気なさはぬぐえなかった。
 オンラインがどんなに発達してもやはりリアルにはかなわない、というのがこの時の感想だった。家族といえども意思疎通を図り信頼感を醸成するには、時間と場を共有することが必要だと痛感した。

去年の夏、家族にはこんな交流があった。孫四人と一緒に布団に入ってDVDを見たりトランプをしたりと、「場」を共有して遊んだ。
「僕はダンボのDVDを見たいな」と小4の孫が言えば、年長の小6の孫娘が「トムとジェリーが見たい」と言って意見が分かれたが、話し合って「トムとジェリー」を見ることになった。そしてフトンの中でワイワイガヤガヤ言ってふざけながらいつの間にか眠ってしまった。

そして翌日は、毎夏の恒例となっている近所の海で一緒に遊んだ。孫たちは水泳が得意なこともあり海が好きで、近くの海水浴場で泳ぎ、魚釣りをする。小さな鯛、メバル、ガシラなどが面白いように釣れる。
 投げ釣りが始めると「俺には小さな鯛が釣れた」、「俺はメバルや」、「俺は釣れんな」、娘の長女が「私も釣れた。これ何かな」と聞けば自称魚博士の息子の長男が「それはスズキの子供だ」と答えていとこの交流が出来た。
この年は魚釣りで盛り上がって、子供達家族10人で淡路島まで遠征して、釣り堀やイカダ、防波堤で魚釣りを楽しみ、夜、バーベキューをして食べた。食事中、孫達は魚釣りの成果を語り盛り上がった。
「俺、今日はイカダで大きなメバル釣った」、「私は釣り堀で大きな鯛を2匹釣った」、「俺は、波止で黒鯛を釣った」といえば負けずに最年少の小1の孫も「ワイはガシラとフグを釣った」と言って胸を張った。
最後に唯一、鯛を釣れなかった娘の夫が「来年の春、もう一度、魚いや鯛釣りに挑戦する」と宣言し、全員の拍手喝采を浴びた。誰もが来年も魚釣りに行けると思っていたが、コロナ禍で集まれず夏に延期した。

この時、私が全ての孫に来年は妻の実家がある奄美大島に孫を連れて行き、シュノーケリングをする約束をしていた。が、それもコロナ禍の拡大で、医療体制が脆弱な離島の人に迷惑を掛けてはいけないと断腸の思いで中止した。
 今年も先行き不透明で、小2の孫から「ジイちゃん。今年は、あまみおおしまに行けるよね」と言われると切なくなる。
 もしかすると今年も思うように交流できないかもしれない。私が妻に「自分も年を取ってどんどん体力が落ちていく。一緒に孫と海に入れる夏が、あと何回あるかと思うとやるせない。ただ、コロナは誰のせいでもない。今は医療関係者の努力が水の泡にならないよう、静かに待つしかないと思っている」と弱音を吐くと妻から「いつかコロナが収まって、孫たちと奄美大島へ帰れることを楽しみに、今は夫婦で体力維持のため散歩に励もう」と前向きな答えが返ってきた。
 よって、夏にはワクチン接種を終え是非とも家族みんなで奄美大島の海を楽しみたいと思う。コロナ禍が改めて家族の在り方と「場」を共有する出合いの大切さを教えてくれた。
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