第6話

文字数 926文字

急に音楽が止まった。

楽団に目を向けると第二王子が止めるように指示をしていた。 


静まりかえる会場で、彼は口を開いた。

私、ヒルタン第二王子マスタールは、本日ここでヴィヴィアン・レーヌとの婚約を破棄する事を発表する
会場がざわつき、騒ぎはそれだけでは終わらなかった 。
私の新しい婚約者はケイラ・ステファンだ
第二王子の隣に、ヴィヴィアンの代わりの立ったのは、金色の髪に青い瞳の、僕が学校に送り込んだ優しそうな女性。

ヴィヴィアン様が動く 

反射的に僕は彼女を追った。 

会場を走り抜け中庭に出た彼女に、僕はやっと追いついてその手を掴んだ。 


 これまで十六年生きてきて彼女に触れたのは初めてで、そのあまりの柔らかさにすぐに手を放した。

なぜ、放すの? 私が心配じゃないの?

彼女は真っ黒の瞳で僕を睨み、胸をそらして高飛車な態度だった。 


(えっと、泣いてない?)
リックのうすのろ! 

意気地なし! 

婚約破棄させて私を平民に落として娶るのではなかったの!

へ?

どうしてそれを

お父様が教えてくださったの。

殿下が嫌になるくらい、ケイラが諦めるくらい、イジワルの仕方を教えてくれたわね。

どれも全部失敗したけど。

殿下もケイラも最後の方は分かちゃったみたいで。

リック! 

どうして諦めたの? 

もう私の事、嫌いになっちゃったの?

涙が滲んだ瞳。

怒って上気した薔薇色の頬。

目のやり場に困るくらい色気がただ漏れだ。

ヴィヴィアン様。

僕はまだあなたのことが好きだ。あなたは僕の事どう思ってる?

婚約破棄されたばかりの彼女。 

今聞くのは間違っている。 


だけど堪らず聞いてしまった。 


あなたは私の大切な人。

会えなくて清々するなんて書いて、本当にどうかしてたわ

ヴィヴィアン様

あなたは平民には落とされなかったけど、婚約破棄された。

僕も今や貴族だ。

僕と結婚してくれないかな?

け、結婚! 

まずは婚約からよ

嬉しいよ! 

本当に婚約してくれるの?

本当よ。

信じていないの?

嘘だと言ったほうがいいのかしら?

こうして僕の幼馴染の悪役令嬢は王子に婚約破棄され……僕とまた婚約した。

あんなに意地悪で怒りっぽかったのに、ヴィヴィアン様は変わってしまった。 

それが残念だと思っていたらやっぱり意地悪だったというのは別の話で。 



 (おしまい)

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登場人物紹介

リック・ガンデーラ

国一番の商人ガンデーラの長男

顔は可愛いが腹黒

ヴィヴィアン・レーヌ

レーヌ伯爵のご令嬢で、なんと第二王子の婚約者

性格がキツイが素直

一流の見張り

リックの父。

国一番の商人ガンデーラ

第二王子

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