第１話

「あなたの為なのよ…だか…ら…」

すっかりと日が落ちた世界に目が覚める。いや、目覚めてしまったと言う方が正しいか。

食べたまま散らされた食器、乱雑に置かれた洗濯物、それらをみるだけで既に感傷的な気持ちになってしまう。

やっと地に足がついた感覚になってきたかというところで激しい空腹感に襲われた。そういえば何日も物を口にしていなかったようだ。

起きなければと私は重い腰を上げた。「彼」はもう帰ってきているだろうか。時計の針は読み取ることができない。

長く連なったメッセージのあとに「なんで」と一言。それはたった三文字だけれど、意味はその限りではないことは確かだ。

玄関が開く。「彼」は一目散に駆け寄ってきた。間髪を入れずに部屋の中に鈍い音が響き、私は脳が揺さぶられる感覚を覚える。その時、「彼」の瞳にふいに私は吸い込まれそうになった。いつかの幻影を見ているような不思議な気持ちになる。その時、懐かしい言葉が頭の中に反芻した。