第1話

文字数 1,528文字

 ここは、まほうのくにの、ちいさなむら。
 ここでくらしているひとは、みんな、まほうつかいです。しかし、このむらでただひとり、まほうをつかえないおんなのこがいました。
 おんなのこのなまえは、ありあ。
 ありあは、まほうをつかえませんが、とてもやさしく、うたがじょうずでした。
 ありあのことを、よくおもわないひとも、たくさんいました。まほうのくにでは、まほうをつかえるのが、あたりまえだからです。
 そういうわけで、ありあには、ともだちがいません。いつもひとりぼっちです。
 ひとりぼっちでさみしいときは、うたをうたって、すごしていました。
 
 あるひ、ありあが、いつものように、ひとりでうたをうたっていると、おとこのこがやってきました。
「きみは、うたがじょうずだね」
 おとこのこは、ありあのうたを、きにいったようです。
 だけど、そんなふうに、おとこのこからはなしかけられるのは、はじめてのこと。
 ありあは、とまどいました。
「わたしとはなしていたら、あなたまで、きらわれてしまうわ」
「どうして?」
「だって、わたしはまほうがつかえなくて、みんなから、きらわれているもの」
「どうしてみんな、そんなことで、きみをきらうの?きみは、こんなにすてきなうたをうたえるのに」
 ありあは、うれしいような、はずかしいようなきもちになりました。
 じぶんのうたをほめてもらったのは、うまれてはじめてだったからです。
 それから、ありあとおとこのこは、なかよくなりました。おとこのこのなまえは、あるとといいます。
 あるとは、ありあにできた、はじめてのともだちでした。
 ありあは、あるとがほめてくれたうたを、もっとがんばることにしました。
 それからというもの、まいにち、いっしょうけんめい、うたのれんしゅうをしたのです。
 すると、ありあのうたは、めきめきじょうずになっていきました。

 あるひ、わるいまほうつかいがやってきて、むらのおとなたちに、にくしみのまほうを、かけました。
 まほうをかけられたおとなたちは、いかりにみちあふれ、おたがいに、にくしみあいました。
 そのせいで、むらでは、たえずあらそいがおこるようになったのです。
 こまったこどもたちは、おとなたちをもとにもどそうと、まほうをつかいました。
 あるこどもは、こころがおだやかになるまほうを。
 また、あるこどもは、わらいがとまらなくなるまほうを。
 しかし、だれも、おとなたちがかけられた、まほうをとくことができません。

「どうしよう。このままあらそいがつづけば、このむらは、ほろびてしまうかもしれないわ」
 ありあは、みんなをたすけるために、じぶんにできることを、かんがえました。そこで、うたをうたうことにしたのです。
「わたしにできることは、うたうことだけだわ」
 ありあは、みんなのこころがおちつくようにと、ねがいをこめて、うたいました。
 そのうたごえの、あまりのうつくしさに、おとなもこどももみんな、むちゅうになりました。
 そして、いつのまにか、あらそいはしずまり、おとなたちは、おだやかなこころをとりもどしていました。
「ありあ、すごいわ」
「とってもきれいなうたごえね」
「ありあのおかげで、みんながもとにもどったわ」
 いままで、ありあのことをきらっていたこどもたちが、ありあをほめたたえました。
 そして、ありあに、あやまりました。
「いままでほんとうに、ごめんなさい」
 ありあは、うれしくなって、あるとにおれいをいいました。
「ありがとう。あると。わたしのうたを、さいしょにほめてくれて」
「だって、きみのうたは、すばらしいもの」
 あるとは、ほこらしげにいいました。
 それからというもの、ありあは、みんなにあいされ、しあわせにくらしました。
 


 
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