「ブロック・ウォーズ!」プロット

文字数 6,082文字

   
起)主人公の少年タカシは中学一年生。いつも彼を買い物に付き合わせる母親は、年齢よりも若く見られる容姿で、よく「姉弟ですか」と間違われる。タカシから見ても子離れできていない女性であり、彼は「もう中学生なのだから、そろそろやめてほしい」と思うが、それを言い出せないでいた。
今日も母親と一緒に近所のスーパーへ。食品売り場の後「雑貨小物を買いたいから」という母親に連れられて、スーパーの三階にある100円ショップに入る。100円ショップの店内では、母親から離れてうろうろするが、そのうちに目に留まったのが、玩具コーナーのブロック玩具だった。
最近は遊ばなくなったが、小さい頃は色々なブロック玩具を買ってもらって、自由自在な発想で組み合わせて楽しんだものだ。もちろん100円ショップのブロック玩具はかなり小さなブロックであり、タカシが持つ既存のシリーズとは規格が異なるので、これを買って帰っても、家にあるブロックとは組み合わせられない。それでも妙に心惹かれる。クラスの女の子たちがよく口にする「お店でぬいぐるみと目が合うと『買って』って呼ばれるの!」という言葉を、初めて理解できたような気分だ。
動物、のりもの、ロボットなどのシリーズがある中で、タカシの心を掴んだのは、ロボットシリーズの一つ、飛行形態に変形できる人型ロボットだった。変形という言葉に誘われたのだろうか、と自己分析しながら、その場で立ちすくんでいると、母親がやってきた。「あら、それが欲しいの?」あと一つ何か買えばちょうどキリが良い購入金額になりポイントが貯まる、と言い出す母親。さらに彼女は「ブロック玩具はいいわよね。子供の創造力を伸ばすおもちゃだわ」という理由も持ち出す。タカシにしてみれば「そんなことを言われるほど小さな子供ではない」という気持ちもあったが、買ってもらえるのであれば反対する必要はない。母親の言葉を受け入れて、先ほどの変形ロボットを買ってもらうことになった。その際、母親の買い物の仕方を真似して、棚に並んだ手前ではなく後ろ側の商品を手にしたのが、ひとつの運命の分岐点となっていた。

承)帰宅したタカシは、早速ブロック玩具で遊ぶ。ブロックなので組み合わせ次第で色々なものが作れるはずだが、まずは説明書通りに変形ロボットとして組み立てることにした。しかし、いざ作ってみると、ブロックが一つ余った。緑色のクリアーパーツであり、ブロックの大きさ的にも金額的にも電飾など入っていないはずなのに、何故か豆電球のように点滅している。素敵なブロックなのでぜひ使いたいと考えて、いったん組み上げた頭部をバラバラにして、その特別なブロックをロボットの『目』(カメラアイ)に見立てて組み込んだところ……。ブロックの点滅に合わせて、音声が聞こえてきた。「ありがとう、少年。これで話ができるようになった」「ブロックのおもちゃがしゃべった!?」「おもちゃではない。私は超ブロック生命体だ。名前は……確かプリンスだったと思う」
プリンスは、最初は声を出すだけだったが「周りのブロックと体が馴染んできた」ということで、ロボットとして組み立てられた全体が彼の制御化に入ったらしい。すぐにロボットの手足を動かし始めた。タカシが説明書を見せて説明するとプリンスは理解して、タカシがごちゃごちゃと手を動かすまでもなく「変形!」の一言だけで、飛行形態にも変形してみせた。「100円ショップって凄いな。AI搭載のおもちゃが100円で売ってるなんて……」「先ほども言ったように、私はおもちゃではない。超ブロック生命体だ」感動するタカシを訂正して、改めてきちんと説明するプリンス。プリンス自身、記憶が少し曖昧だが、こことは別の世界の生き物なのは確実だという。悪者の策略で、この世界に転移させられてしまった。元の世界では生物的な外見だったけれど、こちらの世界ではそのままの姿では実体化できず、ブロック玩具になってしまったらしい。気が付いた時にはブロック玩具の袋の中であり、ブロック単体では身動きとれなかったという。「おぼろげな私の記憶によれば……。悪の超ブロック生命体も、私を追ってこの世界に来ているはず。それを倒せば、呪いが解けて、私は元の世界へ戻れるのではないだろうか」
強くなって悪の超ブロック生命体と戦いたいプリンスと、純粋にブロック玩具として楽しみたいタカシ。超ブロック生命体として強くなるというのはどういうことか、プリンス自身もよくわかっていなかったが「変形ロボットとして組み上がっている以上、強いロボットになれば良いのでは?」ということになり、二人の利害も一致した。100円のブロック玩具ならば中学生の小遣いでも買えるので、タカシはさらに戦車のブロック玩具とスナイパーロボットのブロック玩具を購入。それらは説明書通り汲み上げるのではなく、変形ロボットであるプリンスにパーツを足す形で、全くオリジナルのロボットを組み上げていく。「ブロック遊びは自由だ」タカシの胸の内に、小さな頃ブロック遊びを楽しんだ気持ちが蘇っていく。

転)プリンス強化と並行して、タカシは頻繁に一人で散歩に出かけるようになった。手のひらサイズのロボットとして組み上がったプリンスをポケットに入れて、近所をうろうろするのだ。「超ブロック生命体同士は引かれ合う」というプリンスの言葉通り、数日後、超ブロック生命体を持つ少年ケンジと出会う。穏やかにブロック遊びをしたいタカシとは異なり、ケンジは血気盛んであり「見つけたぞ! さあ俺と勝負しろ!」と言う。ケンジの超ブロック生命体は、ピンク色のクリアーパーツ。ケンタウロスのような半人半馬形に組み上げられており、カズンと名乗った。「私と戦うのでしょう? ブロック・バトル・フィールドを発生させなさい!」女言葉で話すカズンは、プリンスよりも記憶がしっかりしており、事情通だった。二体以上の超ブロック生命体が出会うことで、特殊な戦闘用の空間を作り出せるのだという。
カズンに言われるがまま、プリンスもそのように意識したところ、周囲は黒い霧に包まれる。霧の中は真っ暗なのに、まるで照明に照らし出されているかのように、互いの存在はよく見える。不思議な空間だった。そんなブロック・バトル・フィールドで始まる、初めてのブロック・バトル。プリンスは最初の変形ロボットからゴテゴテと強化されており、強力な武装を複数装備する人型ロボットとなっていたが、四本脚で走り回るカズンの機動力は凄まじく、なかなか命中しない。逃げられたかと思ったら、急接近されて、殴り合いに持ち込まれる。近接戦闘でも、二本の腕によるパンチに加えて、四本脚のキックのあるカズンの方が有利なようだった。
肉弾戦では、互いのブロックが傷つく。割れたり欠けたりするブロック以外に、そもそもブロック構造なので、ブロックそのものは健在でも、プリンスやカズンの体から外れてしまうブロックもあった。不思議なことに、体から外れた途端、そのブロックは消えてしまう。
「なんで?」「お前、何も知らないのか?」驚くタカシに、ケンジが説明する。「ブロック・バトルは、所有者同士のブロックの奪い合いでもある。ほら、こういうことさ」プリンスのショルダーバズーカを構成していたブロックが、いつのまにかケンジの手の中にあった。言われてみれば、いつのまにかタカシのポケットの中にも、買った覚えのないブロックが入っている。カズンの体からこぼれ出たブロックだった。「ブロックの奪い合いだなんて、ブロックが可哀想……」思わず呟くタカシに、ケンジが呆れた顔で返す。「甘いな、お前は。しょせんブロックはブロックだ。それよりブロック・バトルの方が重要だ。なにしろ七体の超ブロック生命体を倒せば、願いが一つ叶うのだからな!」
タカシには初耳の話だった。ただタカシは「悪の超ブロック生命体を倒して元の世界へ帰りたい」というプリンスの気持ちを受け入れて、こうしてプリンスを戦わせているだけ。自分自身の私利私欲のためにブロック・バトルをするというケンジの言葉には納得できなかった。「そういうのを優先させるのはブロック遊びじゃない。こんなやつらには負けないぞ!」闘志が湧いてきたタカシはプリンスに指示を飛ばす。「プリンス、強化パーツを全て外せ!」
追加購入ブロックで作ったパーツを取り去って、最初のロボットの状態に戻ったプリンスは、さらに飛行形態に変形。空中を飛び回ることで、四本脚のカズン以上の機動力を披露する。しかし、動きでカズンを翻弄するものの、重武装だったパーツを外してしまったため、攻撃力の決め手にかけていた。
そこでタカシは、ポケットの中のブロックを使って武器を作り、プリンスに投げ渡した。「なんだ、その円弧と棒の塊は?」「必殺の弓矢、ホーリー・アローだ!」ケンジに対して、堂々と言い切るタカシ。「僕のイメージだ。これがブロック遊びの面白さだ」自由な発想で、どのように見立てることもできるのがブロック遊び。それがタカシの信条だった。実際にホーリー・アローは必殺武器として機能する。カズンの受けたダメージが限界値に達したことで、本体であるピンク色クリアーパーツのブロックが外れてしまう。プリンスの勝利となった。
「あら、お兄様!」負けたことで洗脳が解けた、という態度のカズン。もともと悪のブロック生命体ではなく、悪者に操られていただけらしい。しかもプリンスの知り合いっぽい素振りを示すが、まるでツンデレみたいに「知りません! なんでもありませんわ!」と言って、詳細は語ろうとしない。

結)それでもプリンスに協力することになったカズン。悪の超ブロック生命体を探して回ったり、強くなるために練習試合をしたり。タカシも自然に、ケンジと一緒に行動するようになったので、遊び相手ができた気分だ。
そんなある日、二人の前に現れたのが、子猫くらいの大きさの蜘蛛だった。もちろん生きた蜘蛛ではなく、ロボット型のプリンスやケンタウロス型のカズンと同じように、ブロックで作られた蜘蛛だ。ただし手のひらサイズのプリンスやカズンとは異なり、構成するパーツ数は桁違いだった。
「見つけたぞ、プリンス。我ら氷炎兄弟が、今日こそ貴様を粉々にしてやろうぞ!」蜘蛛は変形して、腕と脚と尾と首を二本ずつ持つドラゴン型になる。二つの頭には、それぞれ青と赤のクリアーブロックが埋め込まれていた。
二体の超ブロック生命体によるドラゴンと、プリンスとカズンのコンビ。二対二のブロック・バトルが始まった。別々の方角から挟み撃ちにしたり、一方がもう一方の陰に隠れてアタックしたり、時間差でフェイント攻撃したり。プリンスとカズンは工夫して攻め立てるが、なにしろ質量差がありすぎて、ほとんど効果はない。しかも氷炎兄弟のドラゴンは、右の首から冷気を、左からは熱気を発してくるので、近づくことも難しかった。
それでも「首だ! 首だけを狙え!」ケンジのアドバイスで形成逆転。ボロボロになりながらもカズンがドラゴンの首にしがみついて固定させたところを、プリンスが必殺のホーリー・アローで狙い撃つ。一歩間違えればカズンも巻き込みかねないような捨て身の戦法だったが、プリンスとカズンの息はぴったり合っており、大丈夫だった。ドラゴンの二本の首を破壊して、赤と青のクリアーブロックを弾き飛ばした。
「まさか、このフレイムが敗れるとは……」赤いブロックは輝きも透明度も失い、ただの真っ黒なブロックに変わってしまう。タカシとケンジは、これが超ブロック生命体の死なのだと直感的に理解する。一方、青いブロックの方は点滅を続けており、穏やかな口調に変わっていた。「おや、私は何故こんな場所に……」
これは悪のブロック生命体ではない。カズンが負けた時と同じく、洗脳が解けた様子だ。タカシとケンジも、プリンスとカズンも状況を察した時。首を失ったドラゴンが不気味に笑う。「フフフ……。我が弟フレイムは敗れたが、まだこのアイスが残っておるわ!」頭にあった青いクリアーブロックは影武者に過ぎず、本物のクリアーブロックがもう一つ、ドラゴンの体内に隠されていたのだ。
アイスはドラゴン型から再び変形。背中に二つの大砲を背負った、人型ロボットになった。ただし頭部に相当するものは存在せず、顔は胸の中央にある。クリアーパーツも表面に出てきたが、位置的に今度は「首だけを破壊する」という手段は使えない。大砲から撃ち出される冷凍ミサイルに苦戦する中、タカシの「こっちも変形合体だ」という提案で、プリンスとカズンは一つになった。タカシとケンジが手持ちのブロックを送り込み、ありったけのブロックを取り込んだプリンスとカズンは、一回り大きな鳥型ロボットとなって、アイスに突撃。「行け、プリンス、カズン! ビッグ・バード・アタックだ!」胸部を嘴で貫いて、アイスのクリアーブロックに致命的なダメージを与えるのだった。
弟フレイムと同じく、兄アイスも真っ黒なブロックに変わった。プリンスのおぼろげな記憶が正しければ、悪のブロック生命体を倒したことにより、プリンスもカズンも呪いが解けて、元の世界へ帰ってしまうのだろう。プリンスと出会って以来の楽しかった諸々を思い出し、少しタカシは寂しくなる。
しかしプリンスもカズンも、ブロック生命体のままだった。不思議に思う一同に対して、ちょうど記憶を取り戻した、先ほどの青いクリアーブロックが説明する。「王子様、姫様! ご無事で何よりです!」
彼の名前はワイズ。王国では城付きの賢者を務めており、プリンスは王国の王子、カズンはその従兄妹だったという。プリンスの「悪の超ブロック生命体を倒せば、呪いが解けて元の世界へ戻れる」も、カズンの「七体の超ブロック生命体を倒せば、願いが叶う」も、どちらも微妙に間違っており、正確には「七大魔王と呼ばれる悪の超ブロック生命体を全て倒せば、元の世界へ戻れるという願いが叶う」だった。
「じゃあ今みたいのをあと五つ倒さないといけないのか? しかも俺の願いは何も叶わないのか? 話が違う!」ワイズに食ってかかるケンジとは対照的に、まだまだプリンスと一緒にいられると知って、タカシの頬がほころぶ。「僕たちのブロック遊びは、これからだ」
エピローグ。「行ってきます!」学校から帰ってすぐに遊びに行くタカシ。それを見送る母親が、少しだけ寂しそうな顔を見せる。「タカシちゃん、最近、私の買い物に付き合ってくれないわねえ」タカシは自覚していなかったが、プリンスやケンジたちと遊び始めてから、母親の相手をする時間などなくなっていた。そして今日も「遅いぞ、タカシ」「待たせちゃったかな? ごめん」ケンジと待ち合わせていたタカシは、それぞれのブロック生命体をポケットに入れたまま、二人で100円ショップを訪れる。プリンスやカズン、新たに仲間に加わったワイズを強化するために、ブロック玩具を買いに来たのだった。
   
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