譲らないよ、断じて絶対
文字数 2,119文字
「許す事はできない」
彼はそう言った。深く、深く、肌を抉るような声色で。
返しの付いた針を取る事ができないように、深く刺さった刃物を引き抜けないように、彼の言葉は私の体に深く刺さった。
だがそれがどうしたと言うのか私に気を遣えとでも言うのかふざけているのか自分は私に気を遣わないのに私にだけ強要しようと言うのかそれがワガママで済むとでも思っているのか私がそれをいつまでも我慢しているとでも思っているのか。
「こっちのセリフだ」
「あ?」
彼は明らかに怒気を孕んだ声を出す。だが、どれだけ睨みつけたとしても、私は怯んだりしない。私にだって、思うところはあるのだ。
「お前なんでレモンかけた?」
「は?」
いや、「は」じゃない。唐揚げにレモンをかけるなんて、とても人間のする事ではない。それはいわばテロ。国家反逆罪にも等しい悪逆に他ならない。
「ふざけやがって、そんなもん戦争だろうが」
せめて、一言くらいかけるべきだろう。そうすれば、私はちゃんと断った。
「お前はちゃんと聞いたか!? 唐揚げの香ばしい最高の風味と味をぶっ殺していいですかって聞いてそれを私が良いですよって許可した時初めてやって良い事だろうが!! そんな残飯もどきを作る事になんの罪悪感も持ち合わせないなんて味覚が存在しないとしか思えないしあまつさえ他人と強要する大皿で行うなんてあり得ないだろう!!」
我慢していた言いたい事を全部言ったためにやたらと早口になってしまった。しかし、正直スッキリだ。これで普段私がどう思っているのか少しでもわかってくれればと思う。
「俺のセリフなんだが?」
「はぁ?」
何を言いだすんだコイツは。やっぱりふざけているのか。
「こんな油っぽいもん、そのまま食う方が味覚おかしいだろ。自分の感覚が狂ってる事を、よくもまあそれだけ高らかに言えたもんだな。それに、俺にだって言いたい事ぐらいあるんだよ!!」
「なにをぅ!! 言ってみろ貴様!!」
この私が、一体何をしたと言うのか。どうせ苦し紛れの事で、イチャモンのような言葉が飛び出すに決まっている。
「サラダにドレッシングかけんじゃねえよ!」
ほらね?
「それがどうかしたのか!?」
「するだろうが!! なんでサラダのさっぱりした素材の味に油をぶちまけた!? 全部台無しだろうが! 全部、全部!」
「お酢のさっぱり感があるだろ!」
「ちげえだろうが! 酢の酸味が自然の味を皆殺しにしてるんだ!!」
話にならない。無茶苦茶言って、私を煙に巻こうとしている。そうはいかない。
「関係ない話をするな!」
「関係なくねえだろ!」
即答された。
あれ、関係あるのかな? ないよな。
「だいたいよ! お前とは前から合わなかったんだよ! 何から何まで、全部俺と真逆だ!!」
「な、なんだよ一体……」
なんか、思ったよりマジにキレているようだ。少なくとも、適当な事を言っているわけではない。
「俺はきのこ! お前はたけのこ! 俺は犬! お前は猫! 全部が全部だ!」
凄い剣幕だ。凄い剣幕で、一字一句から気迫を感じる。だが、やはりそれは私にも言える事だ。自分ばかりが苦労しているなどと言う思い上がりは正す必要がある。
「気が合わない事で腹を立てていたのが自分だけだと思っているのか!? 君がマックと言うたびに私がイラついていないとでも思っていたのか!?」
「マックの何が悪いんだよ!!」
「マクドだろ!」
「ねぇよ!?」
耳にするだけでこめかみの血管が細切れになりそうだった。どう考えてもあり得ない事だ。血液がいつもの二倍の速さで流れて、喉の皮が剥がれてしまいそうなほど叫びあげたかった。
それでも、今まで我慢していた。それなのにこんな事を言われたら、私だって黙ってなどいられない。
「マックってなんだよ!? ちっちゃい「つ」はどこから来たんだよ!? 自然に言葉にすればマクドになるに決まってるだろ!?」
「MACだろ!! だいたい「っ」は音になってないんだからどっからも来てねえよ!」
話は平行線だ。どれだけ言葉を交わしても、どれだけ時間を重ねても、この話が決着する時は永遠に来ない。話している私自身、その事をハッキリと感じられた。
「やるしかないようだな」
「残念ながら、そのようだ」
力尽く。結局最後はそれだ。しかし、私たちも大人なので、別に殴る蹴るといった暴力に訴えるわけではない。
「ここは、公平にスポーツで勝負だ」
「ちょうどいいね。私はラケットを持って来ている」
ほんと偶然、なんて偶然。私はこのためにちょうどいい方法を所持している。そして、彼の態度を見るに、彼もやはりそうであるらしい。
ならば、決着の方法はもう決まった。
「この近くに貸しコートがあったはずだ。そこへ行こう」
「そうだな。市民体育館があるはずだ」
「は?」
「あ?」
雲行きが怪しくなった。
「テニスで勝負するのになんで体育館なんだよ!?」
「バドミントンで勝負するからに決まってるだろ!?」
この話は、平行線だ。
彼はそう言った。深く、深く、肌を抉るような声色で。
返しの付いた針を取る事ができないように、深く刺さった刃物を引き抜けないように、彼の言葉は私の体に深く刺さった。
だがそれがどうしたと言うのか私に気を遣えとでも言うのかふざけているのか自分は私に気を遣わないのに私にだけ強要しようと言うのかそれがワガママで済むとでも思っているのか私がそれをいつまでも我慢しているとでも思っているのか。
「こっちのセリフだ」
「あ?」
彼は明らかに怒気を孕んだ声を出す。だが、どれだけ睨みつけたとしても、私は怯んだりしない。私にだって、思うところはあるのだ。
「お前なんでレモンかけた?」
「は?」
いや、「は」じゃない。唐揚げにレモンをかけるなんて、とても人間のする事ではない。それはいわばテロ。国家反逆罪にも等しい悪逆に他ならない。
「ふざけやがって、そんなもん戦争だろうが」
せめて、一言くらいかけるべきだろう。そうすれば、私はちゃんと断った。
「お前はちゃんと聞いたか!? 唐揚げの香ばしい最高の風味と味をぶっ殺していいですかって聞いてそれを私が良いですよって許可した時初めてやって良い事だろうが!! そんな残飯もどきを作る事になんの罪悪感も持ち合わせないなんて味覚が存在しないとしか思えないしあまつさえ他人と強要する大皿で行うなんてあり得ないだろう!!」
我慢していた言いたい事を全部言ったためにやたらと早口になってしまった。しかし、正直スッキリだ。これで普段私がどう思っているのか少しでもわかってくれればと思う。
「俺のセリフなんだが?」
「はぁ?」
何を言いだすんだコイツは。やっぱりふざけているのか。
「こんな油っぽいもん、そのまま食う方が味覚おかしいだろ。自分の感覚が狂ってる事を、よくもまあそれだけ高らかに言えたもんだな。それに、俺にだって言いたい事ぐらいあるんだよ!!」
「なにをぅ!! 言ってみろ貴様!!」
この私が、一体何をしたと言うのか。どうせ苦し紛れの事で、イチャモンのような言葉が飛び出すに決まっている。
「サラダにドレッシングかけんじゃねえよ!」
ほらね?
「それがどうかしたのか!?」
「するだろうが!! なんでサラダのさっぱりした素材の味に油をぶちまけた!? 全部台無しだろうが! 全部、全部!」
「お酢のさっぱり感があるだろ!」
「ちげえだろうが! 酢の酸味が自然の味を皆殺しにしてるんだ!!」
話にならない。無茶苦茶言って、私を煙に巻こうとしている。そうはいかない。
「関係ない話をするな!」
「関係なくねえだろ!」
即答された。
あれ、関係あるのかな? ないよな。
「だいたいよ! お前とは前から合わなかったんだよ! 何から何まで、全部俺と真逆だ!!」
「な、なんだよ一体……」
なんか、思ったよりマジにキレているようだ。少なくとも、適当な事を言っているわけではない。
「俺はきのこ! お前はたけのこ! 俺は犬! お前は猫! 全部が全部だ!」
凄い剣幕だ。凄い剣幕で、一字一句から気迫を感じる。だが、やはりそれは私にも言える事だ。自分ばかりが苦労しているなどと言う思い上がりは正す必要がある。
「気が合わない事で腹を立てていたのが自分だけだと思っているのか!? 君がマックと言うたびに私がイラついていないとでも思っていたのか!?」
「マックの何が悪いんだよ!!」
「マクドだろ!」
「ねぇよ!?」
耳にするだけでこめかみの血管が細切れになりそうだった。どう考えてもあり得ない事だ。血液がいつもの二倍の速さで流れて、喉の皮が剥がれてしまいそうなほど叫びあげたかった。
それでも、今まで我慢していた。それなのにこんな事を言われたら、私だって黙ってなどいられない。
「マックってなんだよ!? ちっちゃい「つ」はどこから来たんだよ!? 自然に言葉にすればマクドになるに決まってるだろ!?」
「MACだろ!! だいたい「っ」は音になってないんだからどっからも来てねえよ!」
話は平行線だ。どれだけ言葉を交わしても、どれだけ時間を重ねても、この話が決着する時は永遠に来ない。話している私自身、その事をハッキリと感じられた。
「やるしかないようだな」
「残念ながら、そのようだ」
力尽く。結局最後はそれだ。しかし、私たちも大人なので、別に殴る蹴るといった暴力に訴えるわけではない。
「ここは、公平にスポーツで勝負だ」
「ちょうどいいね。私はラケットを持って来ている」
ほんと偶然、なんて偶然。私はこのためにちょうどいい方法を所持している。そして、彼の態度を見るに、彼もやはりそうであるらしい。
ならば、決着の方法はもう決まった。
「この近くに貸しコートがあったはずだ。そこへ行こう」
「そうだな。市民体育館があるはずだ」
「は?」
「あ?」
雲行きが怪しくなった。
「テニスで勝負するのになんで体育館なんだよ!?」
「バドミントンで勝負するからに決まってるだろ!?」
この話は、平行線だ。