第1話

文字数 651文字

いつも通りの帰り道。そのはずだった。

仕事を終え、ハンドルを握る。昨日、一昨日、その前と何も変わらないルーティーン。その日のノルマを済ませた私は一秒でも早く家へと帰り、仕事着を脱いでストレスだらけの仕事の空気から開放されたいと願うことしか頭になかった。このトンネルを抜ければ自宅はもうすぐだ。

「やれやれ。今日も結局壁打ちだったな。」
私の上司は人の話を聞く姿勢が全くないのだ。私という部下を持つ以上、その責任を果たさんとしてくれているのは理解できるのだが、硬いマニュアル通りのような指示を出すばかりで、一向に私に仕事を任せてくれる気配がない。私だってもう新人じゃあない。考える頭だって持っている。「言われる前に動く。それができて一人前だ」そう言ったのはアンタじゃないか…。言われる前に、私からの提案をすると決まってこう返事が返ってくるのだ。
「言われたとおりにしてくれるだけでいいから。」
私はラケットすら持たせてもらえないのか。悔しさばかりが募る。

「早く帰ってゆっくり寝よう。」
もやがかかる心をごまかすように、トンネルの中を勢いよく走らせる。

だが、何か違和感があった。

どんなに走っても、トンネルが終わらないのだ。
「なんだ?」
いつもなら1分も経たずに抜けられるはずのところが、軽く10分は走り続けている。だが、一向に出口が見えないのだ。車から降り、振り返ってみるともはや今通ってきた入口さえも見えなくなってしまっていた。
「いったいどうしたんだ?夢でも見ているのか?」
私は困惑しながらも、進むしかない道を進んだ。
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