第34話 ピロートークのはずがプロレスごっこをすることに!

文字数 1,644文字

私がまだ痛がるのでパパは長い時間私を愛することができていない。でもパパは精神的にはすごく満足しているみたいで、止めた後も私をしっかり抱き締めていてくれる。

私はパパに申し訳ない気持ちとなんとなく物足りなさを感じている。パパは無理をしない。それが分かっているから我が儘を言うつもりはない。

パパは私が物足りなさを感じているのが分かったのか、耳もとに話しかけてくる。これがピロートーク?

「最初の夜の久恵ちゃんの眼差しが忘れられないんだ。久恵ちゃんが手を握り返してきて、明かりを消したとき、月明かりで一瞬見えた。もの悲しそうなうるんだ目が今でもはっきり目に焼き付いている。きっと一生忘れないと思う。あの目を見たとき、思い切り抱きしめたくなった。今でも思い出すと抱き締めたくなる」

「よく覚えていない。でも、あの時、嬉しくて、少し怖くて。明かりを消してもらったけど、パパの顔を見たかった」

「あんな目は、あの時の一回だけで、その前もそれからも見ていない。ほんの一瞬のことでも一生の記憶に残ることがあるんだね。だから今、この時この一瞬を大切にしたいと思っている」

「私も」

パパに抱きついた。

「久恵ちゃんの匂い好きだよ。とっても良い匂い。甘酸っぱい匂いに包まれるようで」

「私もパパの匂い好きよ。パパの匂いはうまく言葉では言い表わせないけど、乾いた洗濯物の匂いを嗅ぐとよく分かる。その匂いを嗅ぐと何か落ち着く。父親の匂いみたいなところがあるのかな」

「女の子の匂いは男をムラムラさせる働きがあると思う。以前、久恵ちゃんが酔っ払って、それを介抱して、布団に寝かせたときだけど、布団にその匂いが充満していて、ムラムラして、襲い掛かりたい衝動に駆られた。それで慌てて部屋を出たことがある」

「襲い掛かってほしかったわ」

「残念だけど、理性が邪魔をした」

「これまで、ずっと、パパに無理やり奪われたいと思い、覚悟もしていたけれど、なぜ、そういう思いが募ったのかよく分からないの。本当は優しくしてほしかったはずなのに」

「それは、自分自身では超えられない何かがあって、自身の責任ではなく相手の責任にゆだねてしまうからかな。相手に打ち破ってもらいたい願望ではないのかな」

「私には、そんな深い思いなどはなかったと思うけど。女性には、無理やり奪われたいという、自然な欲求があるのかもしれない」

「男性なら誰でも女性を無理やりにと言う本能的な欲求があると思う。ただ、理性が抑えている」

「お願い! 襲い掛かって見て」

「ええ、いいけど」

「本気出して襲い掛かって、私も本気で抵抗する。でも叩いたりするのはなしよ」

「分かった。そっちも蹴ったりするのはなし。もちろん大声も。前の時みたいに、隣の人がガードマン呼ぶから」

「分かった。じゃあ、始めて」

私は身構える。パパがどんな風に襲い掛かるのか、楽しみ。

襲い掛かって来た。ちょっと本気みたい。真剣な顔になっている。力一杯抵抗する。脚をしっかり閉じて、身体を丸める。防御は万全、これなら何もできないはず。

でもパパはがむしゃらに手足を絡めてくる。力が強い。

「やめて」とか「だめ」とか「いや」と小声で言ってみる。そういうとなおさらがむしゃらに手足を押さえつけてくる。

やっぱり抵抗には限界があった。力ではパパにはかなわない。パパの身体の下に組み敷かれてしまった。

「ワン、ツウ、スリー」

パパがカウントする。勝負あり。これってプロレス?

「これでおしまい」

私は力を抜いた。疲れたー!

「すごく、興奮した。パパはすごく怖い顔していた。どこで抵抗止めようかなと思っていたけど最後まで抵抗してみた」

「久恵ちゃんの力が強いのに驚いた。こちらもすごく興奮した。抵抗されると難しいのが良く分かった。とにかく体力を消耗する。疲れた」

「私も疲れた。パパがいつも言っている心地よい疲労ね。とても楽しかった。おやすみ」

私はパパに力で押さえつけられたとき、パパのものになったというすごい満足感に浸った。私は心地よい疲労の中ですぐに眠ったみたい。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み