第1話

文字数 2,555文字

自己紹介をする。私は男だ。年齢はとうの昔に数えなくなった。性格は自分でもあまりわからない。好きなことや食べ物、趣味などは昔はあったのだが今はない。特技はないが記憶力がまぁまぁある。血液型はA型だ。ちなみに、血液型で性格がわかるという論文などがあるらしいが、嘘だと思っている。
これから私のエピソードトークを少し話そうと思う。あまり期待しないで聞いてほしい。まぁ、先ほどの自己紹介でわかったと思うが、私はつまらない人間だ。つまらない人間からは、つまらない話しか出ない。なので期待はしないでほしいが、覚悟は持ってほしい。これから、君の人生の貴重な時間を、つまらない男に対して消費する覚悟を。






では始めよう。まず、私は不老不死だ。体の年齢はおそらく二十代半ばで止まっている。何度も、斬られたり、撃たれたり、轢かれたり、殴られたり、病気にかかったりしたが、死んだことはない。
この時点で君は?となっているだろう。あるいは!?か。もしかすると今話したことを普通に受け入れているかも。君が数えきれないほどの疑問を持っていたとしても、私には伝わらない。なので勝手に話し始めるとしよう。
私は気づいたら生まれていて、気づいたら途方もなく歩いていた。この時の年齢はおそらく七歳ぐらいだ。家族との思い出はないが、おそらくいただろう。そして、、、





いや、この話はつまらないな。やめよう。もっと面白い話をしよう。
私はある時、織田信長と出会った。出会ったといっても、私は敵軍の兵士で、捕らえられただけなのだが。織田信長は私のほかにも兵士を捕らえて、「殺せ」と自軍の兵士に言った。そして兵士が刀を抜いたのだが、その刀が信長のまげに当たり、信長の髪がばっさり落ちたのだ。この話は今でも時々思い出して、毎度笑っている。ちなみにそのあと私は、織田信長の前で大爆笑してしまったのでなぶり殺しにされた。それから私は織田信長が嫌いになった。
私が思った面白い話はこのくらいだ。人生を経験しすぎて正直どんなものが面白くて、面白くないのかがわからないのだ。ただ、この話はなぜか笑ってしまう。吹き出すほどのことでもないが。
「少し」話すといったのでこれで終わらせよう。
私は恋愛を数えきれないほどしてきた。と言いたいところだがそうでもない。ここ数百年生きてきて、二十かそれくらいだ。そのほとんどは、彼女らが年老いていくのが怖くて、途中で私が投げ出したものばかりだ。どれも普通の恋愛だった。どこかで出会い、話すにつれて仲良くなり、いつしか好きという感情が生まれ、それを伝えて向こうが「いいよ」と言ってくれる。もしくはその逆で彼女の方が伝えてくる。そういう普通だらけのエピソードの中にただ一つ、よく覚えている話があるのでそれを話す。
彼女の名は毬子。これは本名じゃない。彼女がいつも蹴鞠をしていたからそう呼ぶことにしたのだ。毬子は私の家の隣に住んでいた。彼女は二十だと言っていた。彼女との出会いは、彼女が庭で蹴っていた毬が柵を越えて、帰宅途中の私の頭に当たり、それと同時に彼女が家から謝りながら出てきた時だった。私はそのとき、今の言葉でいう一目惚れをした。そして彼女に告白した。彼女は少し難しい顔をしたが、了承してくれた。
彼女は話すのが苦手だというので手紙でやりとりをすることにした。彼女の字はとてつもなく綺麗だったのを覚えている。私はずっと普通の恋愛をしてきたので、隣同士なのに手紙でやりとりをするところやデートを全くしないところなど、普通ではないという刺激的な日常に心を躍らせていた。外で会っても会釈一つであとは何もない。ただその時に彼女を見れるだけで幸せだった。
しかし刺激的な日常も続けていれば、それが普通になる。私は手紙を送りあっていて、日に日に彼女に会いたい、そしてどこでもいいから二人きりで出かけてみたいと思うようになっていった。
ある日、私は我慢できず彼女の家を訪ねた。すると彼女の母親が出てきてこう言うのだ。「あんたかい?嫁ぎ先が決まっている娘にしつこく手紙を送ってくるのは。」と。私は驚いた。家の方へ目をやると、毬子がこちらを申し訳なさそうに見ている。彼女は私に気づくとそそくさと部屋に隠れてしまった。そのあと一通り彼女の母親に怒られた後、私は家に帰った。帰ったという距離でもないが。私は毬子に憎悪の感情が湧いた。殺意すらもちらほらと顔を出していた。母親からの情報によると、私が告白した時にはもう縁談が決まっていたらしかった。だから手紙だったのか、だから名前も教えてくれなかったのか、だから、、、だから、、、だから、といくらでも彼女に対する文句が出てきた。明日にはもう旦那の家へ行くということだった。いっそ襲いに行ってやろうか、殺してやろうか、と思ったが、私には犯罪を犯す勇気が全くなかった。今ではその勇気がなかったことに感謝している。
次の日私は、とてつもなく憎たらしかったが、彼女の顔をどうしても見たいと思い少し離れて見ていた。彼女の家族がある程度の荷を車に詰めて、彼女を乗せて走りだそうとしたその時、彼女と目が合った。その瞬間私は走り出した。今思えば、あれ以上本気で走ったことはこの人生で一度もないかもしれない。もちろん追いつかない。もう体力が切れて、徐々に減速し始めた時、彼女が紙を窓から放り投げて、それが私の顔に直撃した。それを取って見てみると、シミで文字が歪んでいたが「ごめんなさい、あいし」と、とても彼女の文字とは思えない汚さで書かれていた。
つまらない話だ。結局恋は叶わず、彼女の行方も名前もわからないまま終わったのだ。でもずっとこれが頭の中にある。私はそれから恋愛を全くしていない。
正直少し話すと言ったことを後悔している。今更、話したいことがたくさん出てきたのだ。たくさんの偉人に出会ったことや、殺された時の話、私が不老不死だと出会って間もなく見破った親友の話など。だがどれもつまらない。君にこの人生の全てを伝えられないのがつらい。君が不老不死だったらどんな人生を歩んでいただろう。君はこんなつまらない話を最後まで聞いてくれたおもしろい人だ。きっと、私より遥かにおもしろい人生を歩んでいただろう。私はそんなおもしろい人生を想像しながら寝るとするよ。
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