ミルトンとカルトン

文字数 1,042文字

*ミルトン(以下「兄」)


カルトン! カルトン!


*カルトン(以下「弟」)


……ん……んん……兄さん? ミルトン兄さんかい?


ああ良かった! どこにいるのかと思ったぞ!

お前ったら、母さんに怒られたっきりどっか行っちゃったもんだから……。離れの物置きにいたのかい! しかものんきに居眠りかい、いい気なもんだ!


ふふ……兄さん、探しに来てくれたの?



当たり前だろ、大事な大事な弟だ! しかも双子のな!

それにお前、母さんに怒られた絡みで「朝のお祈り」てきとうに済ませたんだろう?


あ……天気、悪くなってきた?



悪いどこじゃない、もう嵐だよ。寝ぼけてないで外の音を聞いてみろ、窓の外を見てみろよ!


ああ……ほんとだ……。

めんどくさいね、ぼくらが「神様のご機嫌を損ねるようなこと」をしたら、決まって天気が荒れるんだ。


まあそう言うな。その代わりにボクらが気に入らない奴を『あいつ、ひどい目に()えば良い』って望んだら、きっとそいつは飛びきりの不幸な目に遭うんだから。


……そうだね。そのせいで命を落とした奴も数知れず……。

ねえ、兄さん。こんなことが他の人にばれちゃったら、ぼくらは殺されちゃうのかな。「悪魔の子」とか言われてさ……。


いいや、その点は安心さ。何たってボクらは「神様のお気に入り」なんだから。

それにボクらは普通の人間とは違う、大きな使命を持っているんだ。そのためにならたかが数百、数千人の犠牲くらい……。

カルトン、お前だってそうだろう? お前だって昔「()(にえ)の子羊」として、偉大な目的のためにボクに「裏切られ」、磔刑(はりつけ)にされて殺されたんじゃないか、なあ……。


……うん。そうだね。でも兄さん、ぼくは前世で兄さんのために殺されたこと、ちっとも恨んじゃないからね!


そうだろう? じゃあボクらのお祈りで殺された奴らも一緒だよ。

それよりお前、ちゃんとお祈りし直さないと。こう天気が荒れちゃ、お前がきちんとお祈りしないと二三日はこの嵐は止まないぜ?


うん。もう少しこのままで……。

こうしてたら、二人きりに誰の邪魔も入らないし。ちょっとくらい大きな声出しても、雨の音で聞こえないし……。


……誘ってんのか? ジーザス……。


……その通りだよ。ジューダス兄さん……。

幼い双子は、遠い前世でのお互いの名を呼び合った。

意味もないやきもちを焼くように、降り続ける雨の音がババラババラとリズムを刻んで激しくなった。

やはり双子の言ったように、この嵐は数日後まで続くのだろう。(了)

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