プロット

文字数 2,047文字

 
 起)牧原薫は二十七歳の男性で会社勤めをしている。
 彼は不動産屋のカウンターで賃貸アパートの間取図を見ていた。どれも予算オーバーだった。
 仕方なく薫はいわくつきの物件を内見する事にする。
 それは前の住人だった、おじいさんの幽霊がでると噂の家だった。
 彼は家の内見を終えると「本当にいいんですか?」と心配する営業マンの言葉に耳を貸さずに契約を交わす。
 大丈夫、幽霊は出ない。確認済みだ。
 彼は幽霊を見る事が出来るのだ。
 格安で一軒家に住む事になった薫はルームシェアの仲間をネットで募集し二十五歳の吉見譲という同居人も決まった。
 そして三週間後、薫は戸惑っていた。
 男性だと思っていた薫の予想に反して吉見(ゆずる)は女性だったからだ。
 そしてもう一つ予想だにしなかった事は彼女の後ろには背後霊がくっついていた。

 
 承)背後霊は彼女の亡くなった祖母、梅だった。
 一つ屋根の下で暮らす内に薫は譲に恋心を抱く様になるが梅に邪魔をされて譲との距離を縮める事が出来ない。
 そんな時、家に空き巣が入る。幸いにも何も盗まれなかったが通報を受け訪れた警察官はイケメンで「このお巡りさんになら孫娘を任せられる」と梅のお眼鏡にかなうのだった。
 イケメン警察官は毎日、家の周りをパトロールし譲とも仲良くなり、更に追い打ちをかける様に薫には転勤の話が持ち上がる。
 そして三人の男女の仲を詮索する燐家の谷中というおばさん、おばさんはうわさ話が三度の飯より好きで地獄耳だった。
 頭を悩ます薫に譲から連絡が入る。
 家を除霊してもらったら?と谷中のおばさんが山伏(やまぶし)を連れて玄関に来ているというのだ。
 薫は梅がいなくなれば譲との恋もうまくいくかもしれない、と一瞬、思う・・だが
 「駄目だ、譲さん。断るんだ」彼はそう言うと我が家を目指し走り出した。

 転)おばさんに断ろうと譲が玄関を開けると一緒にいた山伏が
 「感じる、強い霊気を感じるぞ」と叫びながら譲、目がけて突進した。
 ところが山伏は彼女の横を素通りし家に入るとリビングの床板をはがし床下にあった小箱を手に取った。
 中には古い黒水晶の指輪が入っていた。
 突然、谷中のおばさんが笑い出した。
 「フフフ、やっと見つけたわ」
 その指輪は指にはめた者のパワーをより大きいものとする不思議な力を持っていた。
 この家の前の住人で指輪の持ち主だったおじいさんは悪人の手に指輪が渡る事を恐れ床下に隠したのだ。
 だが地獄耳の谷中のおばさんは家のどこかに指輪がある事を聞き、空き巣の様に忍び込んで探したが見つけられず、山伏を連れて来たのだ。
 おばさんは指輪を奪い取ると、その指にはめた。
 彼女は地獄耳の能力を更に高め聖徳太子の様になりたかったのだ。
 だが、指輪の力は強く彼女は人の心の声も聞こえる様になった。
 「譲さん」薫とパトロール中だったイケメン警察官が部屋に入って来た。
 「いかん、指輪をはずせ」
 制止しようとした山伏におばさんは耳打ちした。「あんた、幽霊が怖いから避けてるんだね」
 たじろぐ山伏をおばさんは投げ飛ばした。
 おばさんは今度は譲をねらい、梅が必死に譲を守ろうとしている。
 薫もおばさんに飛びかかったが、あっけなく投げ飛ばされると気を失った。
 みんな後ろ暗いところが一つはあるものだ。
 「おのれ、善良な市民を守るのは警察官の勤め、今度は本官が相手だ」
 イケメン警察官は叫ぶと、いとも簡単におばさんを羽交(はが)()めにした。
 彼は誰よりも善良で後ろ暗いところが無いのだ。

 結)気付くとソファーで薫は譲に介抱されていた。
 イケメン警察官は谷中のおばさんを連れて交番に戻っていた。
 自身の不甲斐なさを謝る薫に譲は言う。
 「嬉しかった。薫さんが私の為に・・私、薫さんの事、好きだから」
 薫は梅が視界に入らないように固く目を閉じて譲にキスをした。
 半月が過ぎた。
 改心したおばさんは今、テレビショッピングのコールセンターで働いている。一度に十本の電話に出られるので令和の聖徳太子と呼ばれている。
 イケメン警察官は今日もそこそこに善良な市民を守る為、パトロールにいそしむ。
 そして薫たちは何も無い家にいた。
 薫の転勤に譲もついて行く事になり荷物をトラックに積んだのだ。二人は転勤先で結婚する。
 「じゃあ、行こうか」薫は譲を見て驚いた。
 その背中に梅がいなかったからだ。見渡すと部屋の隅にいた。
 譲を見守る為に背後霊になっていたが結婚も決まり安心して、この家に留まる事にしたのだ。
 「よろしく頼んだよ」梅の言葉に薫はうなずいた。
 だが、トラックに譲と二人で乗りながら薫は思うのだった。
  あの家、本当に幽霊の出る家になっちゃったな
 その頃、不動産屋のカウンター席で格安の一軒家の間取図を見ている客がいた。
 「幽霊が出るって噂があるんですよね」
 戸惑う客に営業マンは自信をもって言った。
 「実は前の住人の方は幽霊が見えるそうで、その方が言うにはあの家には出ないそうです」
 「本当ですか」お客の目は輝いた。
 
 

 


 
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