第1話

文字数 977文字

 深夜のラジオを聴くようになって、1カ月がたった。
彼女に振られてから、眠れない夜の暇つぶしにと、
何気なくつけたラジオだったが、意外にも聞き続けている。
若い女性パーソナリティの性格も、だいぶつかめてきて、
僕だけに語り掛けるような、そんなひと時を楽しんでいた。

流行りの男性グループの曲が終わり、時刻は24時50分になった。

「さて、それではリスナーさんからの、お便りのコーナーです」

少し鼻にかかった甘い声で、いつものお悩み相談が始まった。
昨日は確か、友人である男性に告白したいという、20代女性からの相談だ。

「昨日の「夏みかん」さん、からのお悩みに、早速みんなが答えてくれてるよ」

なんだか、昔の恋心が思い出されて、胸の奥をくすぐられた。
ラジオの向こう側では、色々な人が親身になって考えてくれている。

「ラジオネーム、麺ノビルさんからです。
好きな人がいるから相談に乗ってほしい、と言って、相手の出方をみるのは?

うーん、なるほど。相手がどんな態度にでるか、判断材料になりそうだよね。
でも、応援されたらへこむかも」

そりゃそうだ、相手を試すようなことは、しないほうがいいな。
僕は、ラジオに突っ込みを入れてみた。

「続いては、ラジオネーム、夜中のドライバーさんからです。
2人きりで遊びに誘って、直球で告白してはいかがでしょうか?

そっかー、もしダメだったらさ、ここのみんなで、励ましてあげようよ」

思わず、笑ってしまった。
ダメだった時の、話をするなんて。
でも、みんなで励ますっていうのは、心強い。

無機質で無責任なネットとは違って、
ラジオはパーソナリティーを通じて、温かみを感じることができる。
一方通行のはずのラジオが、たくさんの人との繋がりをもてるから不思議だ。

結局、「二人で、出かけてから告白する」と、いう結果になり、番組は終わった。
僕は、見ず知らずの「夏みかん」さんを、陰ながら応援していた。

ラジオを切ってしばらくすると、幼馴染のナツミから
スマホにメッセージが入った。

『来週の日曜日、会わない?』

あまりのタイミングの良さに、驚いてしまった。

ナツミが、「夏みかん」さん。
なんてね…。

僕は、急に芽生えた気持ちを、どうすればいいかわからず、
胸のドキドキを抑えるのに必死になった。

今、無性に、ラジオの向こう側にいる、たくさんの人たちに、
この気持ちを、聞いてもらいたくなってしまった。









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