第1話

文字数 669文字

ごめんなさいと 伝えたかった
ごめんなさいと 言えればよかった

あなたはいつもハニカミながら 大丈夫だと笑ってくれた

頑張って焼いた卵焼き 少し焦げ付いてしまったけれど
君の愛が強すぎるから 焦げたんだねと笑ってくれた

ワイシャツにアイロンをかけすぎて 焼けてごわごわになったときも
君の愛が強すぎるから 熱くなっただけと笑ってくれた

深夜一時が近づくと 毎晩のように思い出す
十七日は私にとって 特別な日になっていた

目を閉じれば あなたの笑顔が浮かんでくる

まだ帰りたくないなんて わがままを言ってしまったときには
私を優しく抱きしめて いいよって言ってくれました

そのあなたはもういない

あの日 あの夜 この時間に
笑顔を残して消えました

最期に至る一瞬まで 私を見ていてくれました

これまでの失敗やわがままに ごめんなさいと言いたかった
でもきっとあなたなら あやまるなっていう気がする

そんなあなたに甘えたままで 私は何も言わなかった

あの日 あの夜 この時間に
笑顔で言われたあの言葉

どれだけ苦しかったのか どれだけ痛みがあるのかも
わかることはできません

苦しみの中に浮かぶあなたの笑顔は 今でも私の力です

幸せに生きてーー
かすれた声が聞こえました

生きてくれ 生きてほしい
生きてくれるな とは言わないよね?

あなたに言われた 最初で最後の願い事を
私は胸に生きてます

窓の向こうには 暗い夜しか見えません
油断したら 私も溶けていきそうです

いつかあなたを忘れられたら
そのときは褒めてくださいね

私は空を見上げることなく 大地に手を当てることもなく

ありがとうって
心の中につぶやいた


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み