プロローグ
文字数 323文字
途中下船して小舟にのりかえた。
苦楽を共にしてきた家族との旅路が胸に去来し、たったひとり、遠ざかる船影を見送りながら、切なさと寂しさに苛 まれた。
──娘の手を取って引き寄せ、抱き締めてやりたい!
──全身全霊で守ってやりたい!
願望は海の藻屑 と消え、手を差しのべることは到底できはしないのだ。
家族をのせた船は、沖へ沖へと次第に小さくなり、やがて視界から消失した。
嘆き、叫んでも声は届かない。この、母の思いは最早伝わらない。
やるせない刹那を、取り残された小舟の上で耐えなければならない。小舟で大海原をゆかねばならない。
死出 の道行 を嗚咽しながら、娘の無事を私は祈った。祈ることだけが、せめてものはなむけなのだ。残された者へのせめてもの……。
苦楽を共にしてきた家族との旅路が胸に去来し、たったひとり、遠ざかる船影を見送りながら、切なさと寂しさに
──娘の手を取って引き寄せ、抱き締めてやりたい!
──全身全霊で守ってやりたい!
願望は海の
家族をのせた船は、沖へ沖へと次第に小さくなり、やがて視界から消失した。
嘆き、叫んでも声は届かない。この、母の思いは最早伝わらない。
やるせない刹那を、取り残された小舟の上で耐えなければならない。小舟で大海原をゆかねばならない。