第6話

文字数 2,968文字

貰って来たタコ焼きを ぱくついていると俺の顔を覗き込んで修斗が聞いてきた。
「前から聞きたかったんだけど ナギはなんでこの高校にしたんだ。」
「たまたまだよ。ここがいいなって思っただけ」
「でもナギんちから二時間はかかるだろ?遠くないか?」
「え?1時間50分だよ。」
!!!……それ あんまり変わんないよ!!
「あはははは」
嘘をついた。
自宅から遠いのには訳がある。



中学生の時……
担任の米山先生が怖い顔をして教室に入って来た。
「岩崎と山口、職員室に来なさい。」
米山先生の声はいつもと違って硬く尖って響いた。
「え、なんだろう?」
「やべっ!」
何が やべ なんだ?
逃走しようとした山口を米山先生が捕まえ、僕についてくるようにと言われた。
先生と山口の後を大人しくついて行くと着いた先は職員室ではなく校長室だった。
ドアを開けると校長先生、副校長先生に睨まれ、恐怖のあまり僕は固まった。
米山先生が山口に向かって訪ねた。
「呼ばれたことは解っているな?」
「なんのことか分かりません。」
「岩崎もそうか?」
「はい。」
本当になんで呼ばれたのか分からないから正直に答えた。
だがどう見ても先生方は僕たち二人にとても怒っているみたいだ。
僕は今まで、呼び出されて怒られるような悪いことした覚えがない。
「とぼけても無駄だぞ、証拠はあるんだからな。」
そう言うと米山先生はノートパソコンを出して僕達に見せた。
そこには「ネットアイドル動画」と右上に表示され、画面にはアイスクリームを食べている僕が映っていた。
「運営会社に問い合わせて山口の口座に入金していると確認済みだからな。」
「あー、そこまでばれちゃってんのか。」
僕は驚きを隠せなかった。
「えっ、えっ、これ、この前の……」
この動画はついこの前、学校の帰りに山口と寄り道して買い食いした時のものだ。
山口はしょっちゅう動画を撮る奴で、なんでそんなに撮るんだと聞いたら「将来俺は映画監督になりたいから練習し
てるんだ。岩崎 練習台になってくれ。」と言ってスマホで撮影していた。
「山口っ!映画監督になりたいから練習に撮らせて欲しいって言ってたよね?!なんでこんなことになって……」
僕の言葉を遮って山口は開き直って言う。
「いーじゃん、いーじゃん。減るもんじゃないし」
「山口っ!! 少しは反省しなさい!」
「まあまあ、米山先生その辺で。どうやら岩崎君は利用されただけみたいですね。」
怒鳴る米山先生を制して、校長先生が穏やかに話しかける。
「山口君、なんでこんなことしたんですか?正直に話せば処罰の軽減を考えましょう。」
校長先生の一言に安心したらしく山口は動画投稿の理由を正直に話し出した。
「なんでって彼女とデートする金が欲しかったから。だってこんなに可愛いんですよ?視聴者だって 女の子だと思ってガンガン課金してくれるし、利用しないと勿体無いじゃないっすか。」
可愛い……
女の子……
パソコン画面の右横の再生ランキングリストを見ると全て女の子だった。
今まで親友だと思っていたいたのに、小遣い稼ぎのために僕を利用したのか。
ショックで声が出ない。
ネット動画を投稿したのは山口の単独犯ということで、山口は一週間の自宅謹慎と1ヶ月間近所の清掃のボランティア活動。
僕は被害者として何も咎められなかった。
ネット動画は近いうちに削除されると教えてもらい。
ほっとした。
米山先生に連れられて山口と教室に戻るとクラスメイトが、わっと近づいてきた。
「山口、どうだった?」
「ダメダメばれちった、自宅謹慎一週間と近所の掃除のボランティアしろってしかも1ヶ月だぞ。」
「うわー、それ、岩崎もいっしょ? 」
「アイツは何にもなし、俺だけ」
「それってズルくない?」
「普通、同罪じゃね?謹慎半分こしても良くない? 」
僕の方をみんなが睨んで口々に文句を言ってる。
「こら!山口、早く仕度して帰りなさい。」
「はーい。」
何かひそひそと話していた連中が僕の周りを取り囲むとスマホを突き出した。
「渚ちゃーん❤男のくせに女みたいに可愛いってどうなんだよ。男として情けねーな。」
スマホでサイトに上げられている動画を僕に見せて嘲笑っている。
クラスメイトが一斉に笑い出した。
クラス全員知っていた?
知らないのは  僕だけ……?
クラス全員が悪魔に見えた。
ぷっつん
何かが音を立てて切れ…
「うわああああああああっっ!!」







……………
……………あれ……
さっきまで学校にいたよな……なんで自分ちの風呂に入っているんだろう
気が付いた時には自宅の浴槽の中だった。
体のあちこちに出来た擦り傷に暖かいお湯が染みる。
どうしたんだろう僕。
その前の記憶はほとんどない。
お風呂からあがってリビングに向かうとお母さんは泣いていた。
記憶がなくて何があったか教えて貰うと、その内容は信じられないものだった。
僕は教室で叫んで暴れて数人に怪我をさせたらしい。
お母さんが学校に迎えに行った時には ぼーっと一点を見つめて床に座り込んでいて、恐る恐る話しかけると、クラスメイトにいじめられたと泣き出したとのことだった。
僕にはそんな記憶がなかった。
後日、大学病院に行くと極度のストレスから嫌な記憶を消してしまったんだろうと診断された。
学校からは三日間の自宅謹慎を言い渡された。
謹慎が開けて登校するとクラスメイトの僕を見る周りの目が変わった。
岩崎 渚は、普段大人しく見えるが、実は不良で怒らせると怖いという噂が流れ、周囲の生徒から卒業するまで距離を置かれる事になった。
それ以来、僕の周りでは「可愛い」とか「女の子みたい」と冷やかす奴や、そういう言葉を聞かなくなった。
みんなに舐められないように言葉も「僕」から「俺」と言うように変え、高校は俺を知っている人間がいない遠い所を選んだ。

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視界がぼやけて見える。
「ナギ?どうした?」
過去を思い出して固まっていた俺を心配そうに修斗が覗き込んでくる。
しまった!俺、涙ぐんでる?!
修斗から顔を背けて見得ないように袖で涙を拭う。
「……通学大変だけど。修斗に会うことが出来たから、この高校に来て良かったよ。」
「……ナギ…」
俺は両手にたこ焼きと焼きそばを持ってニッコリと笑った。
「だってこんなにお得なんだもん。」
「お………俺の良かった所ってそこー?! orz 」
「あはははは、うそうそ冗談だよ。良い奴じゃなきゃ友達にならないって!」
人を思いやれる優しい、心もイケメンなお前が………
大好きだよ。
「どーせ飯持ってくるから良い奴なんだろ………」
「根に持つなぁ。もーすねないの!はい、綿飴あげるから。」
「それは元々俺が持って来たヤツだろー!」
「あはははは!」
部室には人は来なくて、そのままふざけあって、だらだら食べていた。
普段の修斗は忙しくて こんなに長く独占することは出来ないから凄く嬉しかった。
このままずっと時間が止まってくれたらいいのに……
そう思わずにはいられなかった。
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